創業126年、帝国ホテルがついに「脱オンプレ」 情シスはどう経営陣を口説いたか「伝統は革新と共にある」

2016年にメールシステムを「Gmail」に移行した帝国ホテル。各国のVIPを含む顧客情報をやりとりする同ホテルを史上初のクラウド化に踏み切らせたのは、同社で10年以上ホテルマンとして活躍したある情シスの“危機感”だった。

» 2018年10月05日 07時00分 公開
[高木理紗ITmedia]

 1890年の開業以来、128年の歴史を持つ帝国ホテル。同ホテルは2016年10月、従来オンプレミスで運用していたメールシステムを「Gmail」に移行し、初のクラウド導入に踏み切った。

photo 帝国ホテルの情報システム部課長を務める廣石征司さん

 その動きを後押ししたのは、もともと同ホテルのフロントやレストラン部門で10年以上勤務してからITへの興味に目覚めて情シスに異動願を出し、現在は課長――という意外な経歴を持つ、廣石征司さんだ。

 クラウド化のきっかけは、従来使っていたオンプレミスサーバの保守満了だった。当時、他の企業から顧客情報が流出した事件が相次ぐ状況を見ていた廣石さんは、その多くがウイルスを仕込んだメールの添付ファイルをローカルで実行したことが原因で起こっていた点に注目した。

 当時、帝国ホテルではセキュリティ対策として不正通信制御装置やサンドボックスなどを活用していたが、「ウイルスが入った添付ファイルからファイルサーバが感染するリスクが全くないとは言い切れない状況だった」という。

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 「当ホテルには、世界各国の要人を含めた顧客情報があり、1件でも流出すれば信頼が失われてしまいます。クラウドに移行し、ローカルにメールのデータを保存しないようにすることで、万が一ウイルスに感染しても、社内環境でせき止められる仕組みを作りたいと考えました」(廣石さん)

 数社のクラウドサービスを検討した結果、「容量無制限でメールを使え、顧客とのやりとりで過去のメールをさかのぼる頻度が高い接客部門のニーズを満たす」「メールの添付ファイルをローカルに保存せずにクラウド上でプレビューできる」「常にサーバのセキュリティを監視してもらえる」といったメリットから、Googleの「Gmail」を導入。シングルサインオン管理を行う「CloudGate UNO」、自社から送信するメールの添付ファイルを自動的に暗号化し、同時に宛先確認を行う「SPC Mail」を併せて導入し、メールのセキュリティを強化した。

 現在、同ホテルでは、ローカル環境へのデータ保存を全社で禁止し、添付ファイルは暗号化を施したファイルサーバに直接保存することで、万が一情報が流出しても解読不可能にしている。

 また、2018年8月からは、社内の各部門に向けて説明会を繰り返しながら「Google Drive」や「Google+」など、G Suiteの各アプリケーションの運用にも着手した。

photo 帝国ホテルの情報システム部に所属する福壽太郎さん

 社内でのG Suite運用に取り組む情報システム部の福壽太郎さんは「宿泊業務の他にもレストランや宴会、調理などさまざまな業務を担当する社員がおり、全ての社員がメールアドレスを持っているわけではありません。ITリテラシーもさまざまですが、必要な作業や資料をG Suiteで共有しやすくするなど、徐々に働き方を変えていく後押しができればと考えています」と話す。

 クラウド化に臨む企業の中には、顧客情報をオンプレミスから移行する際に漏えいのリスクを意識し、社内から反対が出るケースもある。帝国ホテルの場合は、「必要ならば、革新的なことに積極的に取り組む」という社風に沿って、むしろクラウドのメリットを生かした運用に取り組んでいるそうだ。

 「導入の際、経営陣には『オンプレミスと異なり、クラウドなら複数の専門家によるサーバの監視を一定の対価で常に受けられる』とプレゼンしました。帝国ホテルがこれまで築き上げてきた信頼や価値が1件の情報漏えいで失われてしまうことを肝に銘じ、情シスとして、これからもサービスを経験したホテルマンの視点を持ってシステムの開発や導入を行うことを大事にしたいと考えています」(廣石さん)

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