情報システム子会社――再生か売却か:戦略コンサルタントの視点(1/3 ページ)
情報システム子会社が「低コストオペレーションの限界」という課題を抱えながら存在意義を失いつつある。今回は人材に焦点を当て、この問題について考えてみたい。
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前回は、情報システム子会社の扱いは、結局のところグループ企業のIT人材育成と結びつけて考えるべきではないかと指摘しました。今回は、IT人材に求められる条件から、情報システム子会社の位置づけ方について考えていきたいと思います。
低コストオペレーションの限界――存在意義の希薄化
情報システム子会社の多くは、本体とは異なるコスト構造を持ち、低コストオペレーションを実現するために設立された機能子会社でした。この子会社で育つ典型的なIT人材は、日々のシステムをきっちり運用し、追加開発などを粛々とこなすようなタイプの社員です。
当然ながら新たな技術の獲得機会や、プロジェクトマネジメント、ベンダーマネジメントの経験を積む機会は限定的なため、これらの能力を向上させることは難しいのが実態でした。しかし、それが大きな問題になっていなかったのです。ここにきて脚光を浴び始めたのは、経営層が従来ITにあまり関心がなかったこと、より正確に言えば「よく分からないから放っておいた」ことのリスクに気づいたことの現れと言えます。
今、クラウドコンピューティングとオフショア開発という2つのITサービスが現実のものとして目の前に現れてきています。これらは、機能子会社の存在意義であった低コストオペレーションによる事業貢献の機会を根底から揺るがす可能性を持っています。
ITの投資コストが巨額化している現在、経営層の意識は急激に変化しつつあります。経営者によるITコスト低減の要請は、格段に強くなっています。
本当に業務ノウハウがあるのならば「見える化」すべし
情報システム子会社がグループ企業への貢献を果たすために必要な進化について考えてみます。
多くの情報システム子会社の方々は、自らの存在意義として「(親会社を含めた)グループ企業固有の業務ノウハウを持っている」点を主張します。仮にこうした「業務ノウハウ」が存在するならば、それを「見える化」し、さらなる効率化や事業貢献を果たす土台を構築することが必要です。
コスト面での(外部からのサービスと比べて)貢献が難しくなった状況で、ノウハウをブラックボックス化して、それを既得権益にすることでしか存在を保てないのであれば、早晩事業への貢献を果たせずに退場を迫られることになるでしょう。
その意味で、自社の業務フロー、情報流、ITアーキテクチャー、組織やステークホルダーの全体像を「見える化」し、より競争力の高いオペレーションの提案、利用ベンダーの適切な入れ替えを可能とする土台を築くことこそが最初の一歩と言えるでしょう。「業務ノウハウ」をシステム担当者だけではなく「誰にでも」分かる形に仕上げることで、本社IT部門やグループ企業のトップも巻き込んだ、オペレーションの高度化の議論をグループ企業全体に展開していくのです。
われわれの実感では、グループ企業経営とはいうものの、オペレーション面ではシナジーを生みだす土台を持っていない企業が残念ながら多いといえます。全体像の「見える化」を提示するだけでも、さまざまな改善や改革につながっていくことは間違いありません。
こうした「見える化」と現状分析のプロセスは、グループ企業のIT人材育成の観点から見た場合、非常に多くの経験を残すことになります。「自らを知る」ことから始めることで、IT人材が最初に身につけ、理解すべき基本知識と経験が蓄積されていきます。
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