Facebookで情報を共有 学生ボランティアが支えた活動:現場ルポ・被災地支援とインターネット
ネットを活用した被災地支援に取り組む藤代裕之さんが、「現場」の状況や課題を報告する連載の10回目。ボランティア情報の入力から希望者への説明まで、学生ボランティアが活動を支えた。Facebookは「プロジェクトのツールとして使うと意外なほどに便利」という。
大震災の情報源としてインターネットが活用されているが、被災地からネットで発信される情報はあまりに少ない。震災被害はこれまでの経験と想像すら超えており、ネットにおける被災地支援、情報発信も従来のノウハウが通用しにくい状況だ。
ブログ「ガ島通信」などで知られる藤代裕之さんは現在、内閣官房震災ボランティア連携室と連携している民間プロジェクト「助けあいジャパン」に関わっている。ネットを使った被災地支援の「現場」では何が起き、何に直面しているのか。ネットという手段を持つるわたしたちには何が求められているのだろうか。震災とネット、情報を考える、マスメディアには掲載されにくい「現場」からの現在進行形のルポとして、藤代さんに随時報告していただきます。(編集部)
▼その1:「情報の真空状態」が続いている
▼その2:できる範囲でやる──ボランティア情報サイトの立ち上げ
▼その3:「ありがとうと言われたいだけのボランティアは 必要としていない」
▼その4:ターニングポイントになった夜
▼その5:チームを作る 誰がDBを作るか、プロデューサーは誰か
▼その6:有用性と実装スピードの両立 「とにかくこれでやらせてくれ」
▼その7:データベースは5カラムで設計 学生チームが入力を始める
▼その8:Yahoo!チームが訪ねてきた データベース情報の利用が始まる
▼その9:ボランティア情報がない?
ボランティア情報ステーション(VIS)がYahoo!などに配信しているボランティア情報のデータ収集と入力は学生ボランティアが支えている。学生編集チームは、まとめサイト(wiki)の手伝いからデータベースへの情報収集と入力、説明役まで、めまぐるしい変わる役割に対応しながら成長していった。
Facebookでボランティア情報を共有、使い方も工夫
学生編集チームには、最初の説明会時から「責任を持って取り組んでくれるなら、どんどん任せていく」と伝えていた。まとめサイト時代は日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)の学生運営が中心的な役割を果たしており、任せる部分が少なかったが、学生はボランティア情報の収集、整理、入力といった地味な作業でも工夫を重ねていた。
ネットで見つけたボランティア情報を何でも掲載しているわけでもない。できる限り信頼できる情報を掲載しなければ利用者に迷惑がかかる。掲載に迷ったら主催する団体の活動実績を調べて判断したり、各団体がバラバラに掲載している情報の整理も行い、配信先のポータルサイトで情報を見る利用者にとって分かりやすいように気を配ったりしていた。リアルな活動拠点ができるまで、作業はFacebookのグループ機能とチャットのみで行われていたが、この使い方も改善が重ねられていた。
投稿機能を使い、ボランティア情報スレ、情報修正・確認スレ、掲載見送り・削除報告スレ、連絡事項、などを作成。ネットからボランティア情報を見つけると誰かが、一言とURLをコメントとしてボランティア情報スレに書き込み、データベースへの入力作業を行うと、いいね!ボタンを押す、といった具合だ。これだと、いいね!が押されている情報は処理済みだと分かり、重複が避けられる。Facebookを使うことでどの情報がデータベースに入力され、作業がどこまで進んでいるか可視化され、引継ぎもスムーズになった。
マニュアルはドキュメントに登録され、コメントで改善案が寄せられた。分からないことがあればチャットで話し合うこともできる。チャットにはログインしているユーザーのアイコンが表示され、離れていても「一緒に作業をしている」という連帯感も生み出した。Facebookは使いにくいWebサービスだと思っていたが、プロジェクトのツールとして使うと意外なほどに便利だった。
学生に運営側としての意識も
データベースが開発され、ネットにもボランティア情報が増えてきたこともあり、新たな学生ボランティアを募集する説明会を行うことにした。この説明を学生に任せることにした。これまではWeb開発チームが行ってきたものだった。
説明会の開催は、データベース運用が本格的に始まった翌日から3日連続で行うことにした。説明するためにはスケジュールを考え、資料を準備するのはもちろん、作業ができるだけでなく、理解して人にわかりやすく伝えなければならない。
立ち上がったばかりの組織は固まっていないが人手も足りない。アクションを起こすためにはどんどん仕事を任せていく必要がある。説明を受けたばかりの学生にすら役割が打診された。「明後日に横浜で説明会があるので手伝ってくれませんか」。
3月30〜31日の2日間、VISは横浜で説明会を行った。
情報ボランティアを希望する60人を前に、初日は埼玉大学の林田勇気さんが、2日目は駒澤大学の片岡恵さんが説明を担当、説明を受けたばかりの学生も参加者の横で説明のサポートを行った。
インターネットに接続できない、Facebookに登録できない、といったトラブルも説明会中に続発し、予定されていた時間も迫ってくる状況に陥った。初日は横浜のチームと会場近くで交流会が開かれたが、ビールで乾杯するスタッフの横でPCを取り出し、反省点を洗い出し、Facebookで共有し、フィードバックを行った。
ボランティアとはいえ不十分な説明では時間と割いて参加してくれた参加者に失礼だ。一部の学生は、ボランティアに参加しているという立場から、ボランティア団体の運営側としての意識を持ち、動いてくれるようになっていた。
拍手が起きた説明会
さらに、林田、片岡に慶應義塾大4年の江夏美樹さんを加えた3人をリーダーに指名、そこでVISの活動報告会での説明会も任せることにした。任せるといっても簡単ではない、大人ならある程度クオリティが計算できるが、学生の力は未知数だ。不十分な説明を行うとVIS活動の信頼が失われる可能性もある。
最初のプレゼン資料には「活動拠点ができて、顔をみることができた」「活動を通じて新しい友達ができた」といった内容が並んでいた。内輪の視点ではなく、説明会に来てくれる人が何に興味を持っているかを考えて作り直してもらった。
当日、学生たちはスーツ姿で現れ、活動拠点でリハーサルを行い、PowerPointのスライドを確認していた。立ち見も出た報告会では、助けあいジャパンを統括する佐藤尚之氏、私に続いて、VIS活動にいたる経緯を説明、参加者からは拍手が起きた。
できる役割を把握し、自ら手を動かす
結果論だが、活動拠点に顔を出す頻度が高かった学生に役割が任された。活動拠点で来客対応から学生への連絡、PCの設定まで、細々した作業にも自主的に取り組んでいる姿を見たことが大きい。午前、午後と変わる状況を理解し、学生ができる役割を把握し、自分から手を動かしていた。もっと活動はしてもらいたかったが、4月に入り学生の負担を減らしていった。授業や就職活動に取り組んでもらう環境づくりをするのも責任だ。25日に横浜災害ボランティアステーションに作業を引き継ぎ、学生は作業から離れた。ひとまずの終了目処であった3月末からは3週間も伸びてしまっていた。
後半のモチベーション維持も厳しかったが、そこでも学生が活躍してくれた。学生グループのFacebookには、リーダーの1人から「サークル勧誘・就職活動でいろいろと大変だと思いますが、1日1件の情報確認でかまわないので力を貸してもらえると助かります。横浜への引継ぎもそろそろなので、今週末ふんばっていきましょー」との書き込みがあり、いいね!が押されていた。
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