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大震災の前後で本当に企業と企業人の社会意識は変わったのか――早稲田大学 IT戦略研究所 所長 根来龍之教授(1/2 ページ)

早稲田大学 井深大記念ホールで開催(2011年9月)された「ELForum & ITmedia エグゼクティブ共催 エグゼクティブ フォーラム 働き方と企業経営の“新たなモノサシ”」の講演に、早稲田大学 IT戦略研究所 所長、大学院 教授、早稲田大学 ビジネススクールディレクター(統括責任者)の根来龍之氏が登壇。「大震災の前後で本当に企業と企業人の意識は変わったのか――社会貢献を意識した事業活動とは? 」をテーマに講演した。

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震災が企業と社会を考える機会に

 「3月11日に発生した東日本大震災により、早稲田大学ビジネススクールの卒業式が中止となった。卒業式を楽しみにしていた学生やその両親は数多く、卒業式の中止に関しては賛否両論がある。しかしこの出来事は、企業と社会のあり方について、いろいろと考えてみる非常に良い機会となった」と根来氏は言う。


早稲田大学 IT戦略研究所 所長の根来龍之教授

 「“社会”を意識しない人間はいないし、企業の利益のみが自己目的であるはずもないが、社会貢献を語ることは経営学にとってどこか偽善の匂いがしていた。しかし東日本大震災後、特にベンチャー企業の経営者の多くは、個人的に寄附をするだけでなく、企業としていかに復興に貢献できるかを考えている。企業として“社会”を直接意識することをてらいなく語るようになった。」(根来氏)

 経営学は顧客を意識する学問であり、顧客にどれだけ価値を提供できるかが長期的には競争優位の基準となる。しかし、顧客は社会の一部にすぎず、顧客の背後には「社会」がある。根来氏は、「顧客への貢献を通じて社会に貢献すること、社会への貢献を意識しながら顧客への貢献を追求するなど、実は経営学もまた、社会を意識する学問であるべきだ」と主張する。

震災を意識したビジネス活動

 ヤマト運輸では、被災地の生活・産業基盤の復興と再生を支援することを目的に、向こう1年間、宅急便1個につき10円を寄付することを公表している。根来氏は、「自らの利益の一部を寄付するのであるから、自社が儲かれば寄付も増えることになる。これは事業活動に組み込まれた社会貢献といえる」と話す。

 また、たこ焼きチェーン「築地銀だこ」を経営する「ホットランド」は、群馬県桐生市にある本社を、11月から被災地の宮城県石巻市に1000日間をめどに移すことを決めている。移設された石巻の本社には、人材育成などの機能を持たせて、地元から約100人を新規採用する計画という。

 根来氏は、「これも企業活動を犠牲にしたり、余裕の範囲で寄付をしたりするわけではなく、企業活動そのもので社会貢献を行うものだ。この2つの事例は、ともに顧客の後ろに社会があり、社会を意識しながら顧客に貢献するという、事業活動を通じた社会貢献のイメージといえる」と主張する。

 ソフトバンクの孫正義氏は、個人的に多額の寄付しているほか、震災関連の取り組みを推進している。孫氏は、原発依存からの脱却を訴えて、メガソーラーを全国に10カ所建設する総事業費約800億円の太陽光発電事業である「メガソーラー計画」に、ソフトバンクが1000億円規模の投資を行うことを発表している。

 ただしこの計画は、太陽光発電による電力を国が固定価格で買う「全量買取制度」の実現が前提となっている。そのため「孫氏が脱原発を主張するのは、政商となり補助金を得て儲けたいだけ」とか、「電設備の導入には国などから補助金が出るほか、買い取りにかかる費用は電気料金への上乗せが前提で、国民負担によって新規参入者が儲かるだけ」といった批判もある。

 根来氏は、「孫氏の取り組みは、個人的には善意からのものという印象」を受けるが、「難しいのは、なにが社会にとって“好ましいか”は自明ではないことだ。メガソーラー計画などは特にそうで、善意は、常にいい結果を生むとは限らない。善意はもたらす結果においてすべて肯定されるものではなく、例えば太陽光発電への転換の仕方は、よく議論しなければならないテーマの典型となる」とする。

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