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“愛社精神”はもはや化石、今や“愛職・愛品精神”の時代だ生き残れない経営(1/2 ページ)

愛社精神は日本型経営の特徴である終身雇用、年功序列にささえられている。それが崩壊した今、愛社精神を持たせようとすると、滅私奉公、盲従意識など閉鎖的になってしまう。これからは個人の「働きがい」を醸成する必要がある。

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 先日、就職情報会社で愛社精神の調査をした結果が取り上げられていた。愛社精神があるかどうか聞いたところ、「ある」が来春採用内定を得た学生で89.0%と過去最高、一方入社2〜5年目の社会人で40.9%と過去最低だったそうだ(朝日新聞2011.10.22.)。

 新入社員に対する組織的な「愛社精神教育」はさすがに減ってきてはいるが、社内研修や人材教育業界でその必要性を説くケースがいまだに見られ、帰属意識が薄れた今こそ愛社精神を見直すべきだとする論調が昨今少なくない。しかし今頃愛社精神を取り上げること自体が時代錯誤も甚だしいし、ましてや学生の意識を聞くなど無意味で滑稽極まりなしというところだ。

 愛社精神などもはや化石になっているし、むしろ今時、愛社精神に執着することは害を及ぼすことを認識し、愛社精神に代わる新しい精神を考え出すべきだ。会社に対する帰属意識についても同じことだ。そう考えないと、企業経営を大きく誤るだろう。

 なぜ、愛社精神や帰属意識がもはや化石なのか。

 (1)まず、日本型経営の重要な部分を占める終身雇用・年功序列型待遇・年功型賃金があっての愛社精神であり、それが崩壊しつつあるのに愛社精神だけが残ることはあり得ない。

 (2)さらに、愛社精神は相思相愛で成り立つ。これも日本型経営の特徴だが、会社が個人生活にまで立ち入って心配事の相談に乗る体制や意識があったからこその愛社精神であり、その体制や意識が崩れた会社が一方的に愛を求めても成り立つはずがない。

 (3)昨今のデジタル情報時代と違ってすべての情報を人に頼っていた時代は、愛社精神というようなかすがいが情報の把握や流れを助けたが、今は状況が一変している。

 しかし一言断っておく必要があるが、筆者は日本型経営を完全否定するものではなく、長所は残すべきという立場だ。

 ところで、成果主義が愛社精神を崩壊させたという主張があるが、これは的を射ていない。筆者は成果主義を全面肯定する立場ではないが、すべてについて成果主義を悪者扱いするのは偏見だ。成果主義でも愛社精神を醸成しようとすれば、できないことはない。

 さて、採用内定者に愛社精神を問うのは無意味で滑稽である根拠を示そう。

 (1)内定者の愛社精神は、どうやら内定率と無関係ではないようだ。第1表から、内定率が低くなると愛社精神が高くなる傾向を否定できない。ということは、本物の愛社精神ではなく、採用の内定をくれた会社に対する一時的感謝の気持ちに過ぎないのだろう。

 (2)内定者が最も重視する企業選び基準は、愛社精神と無関係のようだ。第2表から推測できるが、企業選びの基準として社風・事業内容・企業理念など直接的に愛社精神の対象となる企業の内容よりも、成長できるか・自分のやりたいことができるかという自分自身の興味(愛社精神の遠因にはなるが)に重きを置いて企業を選んでいるということだ。

 そもそも、内定学生がすべての事情を本当に理解して愛社精神を持てるはずがない。

■第1表:採用内定者に対するアンケート調査

年度は採用前年度 2007年 2009年 2011年
10/1時点の採用内定率 90.7% 77.0% 80.9%
「愛社精神がある」の回答 78.7% 80%超 89.0%
ディスコ、毎日コミュニケーションズ

■第2表:最も重視する企業選びの基準(調査対象:内定所有者)

企業選びの基準 回答比率(%)
成長できるか 18.4
自分のやりたいことができるか 17.3
雰囲気・社風 12.8
事業内容 10.7
企業理念・ビジョンに共感できるか 9.2
ジョブウエブ、調査期間:2011.4.21.〜29.

 

 (3)冒頭に触れた「入社2〜5年目の社会人の愛社精神が40.9%と極端に低い」ことが気になるが、第3表にも示すように入社してから数年も経てば実に簡単な理由で転職したくなるほど、内定時の愛社精神は当てにならない。20才代で、つまり入社数年で転職を希望する理由の上位3位を抽出したが、他の年代に比べて突出していることが分かる。

■第3表:年齢別転職希望の理由(転職希望者に占める割合、最上段数字は年令)%

転職理由 全体 20代 30代 40代
長時間の勤務 32 42 37 33
自分が希望する仕事ができなくなった 24 42 39 24
自分が必要されていないという感覚 9 21 10 9
エン・ジャパン、調査期間:2011.7.28.〜8.24.

 

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