民主主義は正しいとは限らない:藤田正美の「まるごとオブザーバー」(1/2 ページ)
増税をする前にやるべきことがあると多くの人が言うが、具体的には何を指すのか。大きな支出項目に手をつけなければ歳出カットにはならないのだ。
将来のエネルギー政策をめぐって国民の意見を聞く公聴会。電力会社の幹部や社員が意見を表明して紛糾した。結局、古川国家戦略担当相は、「電力会社の関係者にはご遠慮願う」ということで決着させた。
将来の原発依存度をどうするのか、これは確かに大問題だ。原子炉そのものの安全性、また立地の安全性、原発の運転から出る高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の恒久処理などを考えれば、少なくとも何年かの後には原子力依存をゼロにすべきだと考える人が多くてもおかしくはない。先日も「私はクーラーをもともと使っていない」という人から、今すぐにでも全原発を停止すべきだという意見を聞いた。
電力料金の値上げにしても、多くの人々は値上げは困る(少なくとも収入が伸びていないのだから当然だ)と思うだろう。消費税の増税にしても、民自公の3党で合意したのだから、よほどのことがないかぎり成立するはずだ。しかし消費税が上がるのは仕方がないという有権者は、ひところよりは減っている印象がある。そして多くの人が「増税より先にやるべきことがある」と答える。
確かに原発は人間がコントロールできない部分があるから、できればないほうがいい。消費税のみならず税金は安いほうがいい。電力料金も安いほうがいい。それ自体にあまり反対する人はいないだろうと思う。問題は、それで果たして電力会社なり、製造業やサービス業などの産業がやっていけるのかということだ。国にしても安定した税収なしに国家を運営することは不可能だ。
増税をする前にやるべきことがある。小沢さんだけでなく、多くの人がこういう。具体的には何を指すのか。たいがいの人は例えば国家公務員の人件費、あるいは日本を土建国家に導いた公共事業費などを削るという話をする。一時、鳴り物入りで騒がれた事業仕分けによって、例えばスパコン研究費の使い方を節約することを指す人もいる。
しかし国家予算で見れば、年間の政策経費は70兆円強。そのうち40兆円を超える部分は社会保障関連費と地方交付税交付金だ。そして日本の基礎的財政収支の赤字は20兆円を上回る。国家公務員の人件費といっても約5兆円だ。これをたとえ20%引き下げたとしてもわずか1兆円にしかならない。まして国会議員の定数をいくら削減しても、歳費をいくらカットしても「兆」というカネは出てこない。消費税を5%引き上げても10兆円にしかならないのだから、これだけで財政再建などできないのである。
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