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デジタル時代におけるCIOの役割とは何か?Gartner Column(1/2 ページ)

デジタルテクノロジによって、自社のビジネスが脅威にさらされる危険性を察知し、チャンスへと変えることができれば企業を成長へと導く。デジタルの「脅威」と「チャンス」を知らせるのは誰の責任か?

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 2014年の経済産業省の調査によると、CIO(最高情報責任者)の設置比率は、調査を開始した2006年以降で最低値(29.6%)を記録したという。CIOが設置されていない企業にその理由を尋ねると、「必要ない」(48.1%)からだという。果たしてデジタルビジネス時代において、本当にCIOが必要ないのだろうか。今回は、CIOの役割を、今一度、考え直してみたいと思う。

デジタル時代とは何か? 何が起きるのか?

 さて、本題に入る前に、デジタル時代、デジタルビジネス時代について、少し説明しなければならないだろう。ガートナーでは、デジタルビジネスとは、「ヒト」「モノ」「ビジネス」が密接に関連し合って、境目がどこかが分からなくなり、結果的に、物理的なコトと、デジタルなコトとの境界線がなくなる状況でビジネスが進み、既存の秩序の中で成長してきたビジネスが、一瞬のうちに破壊してしまうようなチカラを持ったものであると定義している。そして、このデジタルビジネスのチャンスと脅威は、あらゆる産業やセクターが対象になっており、関係のないビジネスは存在しないだろう。

 シュンペーターが、イノベーションを「創造的破壊」行為と定義したが、まさに、デジタルイノベーションの世界が、全産業にて起こるというのである。しかも、デジタルという私たちが良く知るITよりも更に幅広いテクノロジをトリガーにしてである。

 デジタルテクノロジによって、自社のビジネスが脅威にさらされる危険性があることを察知し、これをチャンスと捉えて誰もよりも早期に取り入れることができれば、企業成長へのチャンスを手中に収めることができるのが、デジタルビジネス時代なのである。

 「当社には、デジタル時代など到底関係ありません。」という声が、今までも多く寄せられてきたが、未だにそう思っている人も少なくないだろう。実際に、昨年も今年に入っても、そして、多分、明日も自社のビジネスは大きく変化することはないと信じているからだ。

 しかし、デジタルの影響を受けやすい業種や業界では、ビジネスは大きく変化していることに気付くだろう。例えば、どんな街にもあった書店だ。筆者が学生の頃は、街の書店に行けば、その街の文化教養の程度が測れると言われてもいた。今では、読者諸氏もAmazonなどの通販で書物を入手するのが普通ではないだろうか。東京主要部では、午前中に注文すれば、大体の書物は当日中に配達されて入手することが可能である。いや、kindleなどに代表されるブックリーダーでダウンロードすれば、注文した次の瞬間には、読み始めることも可能だ。このコラムの多くの読者が、既に書店に行くことなどないと実感しているのではないだろうか。「それは、本屋さんの話で、当社とは関係ない」と聞こえてきそうだが、意外にも、この手の話は、実はあちらこちらにある。

 スマホがそうだ。ガラケーの時代には、携帯電話のハードウェアメーカーごとに、使い勝手が随分と違ったり、キャリアによって機能が違っていたりもした。しかし、スマホになってからは、iPhoneか、Androidの2種類にほぼ統一されている。ハードウェアメーカーごとに独自の機能を盛り込んだり、キャリアごとの独自機能を搭載したりすることが、あまり意味を持たなくなってきている。

 ユーザは、「アプリ」をダウンロードして自分の使い勝手の良いように、機能を付加していくことが主流だからだ。しかも、このアプリのダウンロードは、iPhoneならば、App Store を経由し、それ以外の機種ならば、Google Play を経由して行われていて、ユーザは、ハードウェアメーカーやキャリアを強く意識する必要は全く無くなっているのである。いや、それどころか、ビジネスの主体が、AppleかGoogleに移ってしまったことが大きな変化なのである。折りたたみ式の携帯電話が流行った15年ほど前では、考えられなかった事態が起ってしまっているのである。

 さらに一例をあげてみよう。皆さんは、今年のお花見では写真を撮っただろうか? 写真を撮った方は、現像に出して、人数分の焼き増しをして、配布しただろうか? 1枚50円くださいとか言って、配っただろうか? 多分、そんなことは誰もしていないだろう。デジカメで写真を撮って、ファイルを、メールしただろうか? 今では、SNSにアップして、皆さんに勝手に見てもらうのが一般的となっているのではないだろうか? 人に見られたくないとか、更に、何十枚もの写真があるなら、写真を共有できる無料サイトにアップして、そこのURLとパスワードを教えるのが普通になっているのではないだろうか。

 しかも、これらの作業は当日中に行われ、何日も経ってから写真を配っていた頃に比べると、格段に早くなった。それに伴って、フイルムの会社が世の中から消えた。写真を撮ったことがあれば、誰もが知っていた大きな企業が、だ。写真がデジタル化したのが、大きな理由だ。同業の中には、フイルム以外に自社の強みを見つけて、今でも元気良く大活躍している企業があるのも事実だが、少なくとも10年来でビジネスの中身は随分と変化してきた。

デジタルテクノロジの脅威とチャンスは自社の中で誰が拾い上げるべきか

 私たちは、常々多くのCIOの方々から、「当社のトップやビジネスの者は、ITを理解できていないのです」と愚痴を聞かされる。もちろん、少しでもそのような状況を改善してもらうようにアドバイスをするのは言うまでもないのだが。実は、単純に「デジタル」も、同様かそれ以上に造詣がないと嘆いているCIOが多いのも事実である。

 「だから、私たちには、“ヒト”も“カネ”も“時間”も与えてもらえないので、デジタルには対応できない(しない)のです」というセリフも良く聞かされる。この手のセリフには、私たちは少々食傷気味なのだが、このような発言は、CIOとしては、とても危険な発言である。なぜなら、テクノロジを理解しないトップやビジネスであると理解して指摘しているのに、自分自身も何もしないと宣言しているからだ。

 明確なアサインがなければ、何もしないつもりなのだろうか。そもそも、現在の業務だって、本当に、明確に指示されてやっているものばかりだろうか。話を元に戻そう。デジタルテクノロジにより、自社だけではなくその業界全体が、極めて脅威にさらされるかもしれないし、上手く取り入れれば、千載一遇のチャンスを手中に収められるかもしれないという情報や事実は、少なくともテクノロジが理解できる位置にいるCIOが適任者の一人であることは間違いないだろう。

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