マイナンバー制度で問われているのは情報を守る価値観や新規事業の創造力:企業のトップが見据えるべきマイナンバーの「先」(1/3 ページ)
年金機構の情報流出事件でマイナンバー制度に対する国民の不信感も高まっているが、企業は粛々と制度対応を進めなければならないことに変わりはない。そこでは、企業として大切な利害関係者の情報をどう守るのか、その姿勢や価値観、さらには新たなビジネスを創造する力が問われていると言っていいだろう。
「マイナンバー、年金番号との連結は延期?」── 日本年金機構の個人情報流出事件で厚生労働省の第三者検証委員会が報告書を公表したこの8月下旬、一部報道機関は政府がマイナンバー制度と基礎年金番号との連結を延期する方向で調整することが決まった。国民の不信感の高まりを受け、参議院での審議が止まっていたマイナンバー法改正案を修正、延期の期間は半年から1年となるようだ。
マイナンバー制度への対応を急ぎ進めようと準備を始めた企業にとっては、少し余裕が生まれたような気もするだろうが、今回の「延期」は、日本年金機構がマイナンバーと個人の基礎年金番号を住民基本台帳ネットワーク経由で連結する作業の延期。年金機構内部でのマイナンバー利用に限った話であり、民間企業は2016年1月の制度開始に向け、粛々と制度対応を進めなければならないことに変わりはない。税分野では、来年、つまり平成28年の源泉徴収票にはマイナンバーの記載が必要になり、また、社会保障分野では、平成29年から従業員の健康保険や厚生年金の加入手続きでマイナンバーが必要になる。
そもそもマイナンバー制度の狙いは、行政を効率化し、国民の利便性を高めるとともに、その一方で国が個人の資産情報を把握して公平・公正な社会を実現することだ。その狙いからして、マイナンバーの利活用は、今後より深く、そして分野も拡大されていくはずだ。
マイナンバー(個人番号)それ自体は単なる12桁の数字だが、さまざまな個人情報とひも付けられるため、「漏えいしたら悪用される、生活が脅かされる」と国民の間には大きな懸念がある。国の行政機関や地方公共団体がしっかりと対応を進めるのはもちろんだが、制度対応を迫られる民間企業も、極めて機密性の高い個人情報に関連付けられる個人番号を扱うことになる。組織として取り組む基本方針から始まって、その取り扱い規定を策定して組織体制を整え、担当者の教育、そして支える仕組み、情報システムの対応まで幅広い安全管理措置が必要になる。
このような背景がある中、企業はマイナンバー制度をどう考え、対応して行くべきか。自治体や民間企業に向け、マイナンバー制度ソリューションを体系化し提供する富士通にそのヒントを聞いた。
「業務プロセスからしっかりと見直さないと、不適切な取り扱いが起こり得る。単にシステム改修すれば済むというものではない。今後、マイナンバー制度の拡充も予定されており、一度対応したら終わりというものでもない」と話すのは、富士通 マーケティング戦略室で番号制度推進室長を務める木田順啓(のぶひろ)氏。
2014年末になって公開された「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」を読まれた読者も多いだろう。そこで示された安全管理措置のポイントは大半が、情報システムとして従業員はもちろん、大切な顧客あるいは事業に協力してもらっている個人事業主の情報をどう取り扱うのか、つまり、企業がステークホルダーの情報をどう守るのか、その姿勢や価値観が問われていると言っていいだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 特集:間に合わせる、その後も見据える「マイナンバー緊急対策 実践指南」
2016年1月に利用が始まる「マイナンバー(個人番号)制度」。すべての企業は、このマイナンバーに社として対応する必要が迫られています。「マイナンバーとは何か?」の基本解説とともに、企業のIT担当リーダーが抱える課題に特化し、実対策と実導入・導入に向けた具体策をまとめていきます。 - マイナンバー法改正案、今国会で成立見通し
マイナンバー法改正案が今国会で成立する見通しがついた。年金機構の情報漏えい事件を受けて、審議が止まっていたが、基礎年金番号システムとマイナンバーシステムの接続を当面延期する方向で調整する。 - マイナンバー「個人番号カード」、職場で一括申請可能に
政府が「個人番号カード」の追加交付方法を追加。市区町村の窓口へ個人が出向く方法に加え、職場で一括申請できる方法も追加する。 - マイナンバーカードの「裏」
2016年1月から公布される「個人番号カード」、基本4情報に加えて顔写真までついて運転免許証よりも取得ハードルの低い身分証明書だね。と思っていたら大きな落とし穴がありますよ。 - “まだ”の企業のための「マイナンバー対応 緊急診断チェックシート」
「まだこれから」の企業は、何に困っているのか。マイナンバー対応調査結果から「間に合う?/対応する」を改めて考えつつ、「実務対応診断チェックシート」で“要は何をすればよいか”をチェックしよう。 - 第1回 「マイナンバーと税理士」の密接な関係
マイナンバー制度は全ての企業で、さらにその委託先、例えば税理士の業務も考慮して対応しなければならない。中小企業はもともと、税務を税理士に委託している実情があるからだ。「税理士への委託」を考慮した実践的な対策方法をできるだけ分かりやすく解説していく。 - マイナンバーカードの「裏」
2016年1月から公布される「個人番号カード」、基本4情報に加えて顔写真までついて運転免許証よりも取得ハードルの低い身分証明書だね。と思っていたら大きな落とし穴がありますよ。 - これからはじめる「マイナンバー対策のキホン」5つのポイント
すべての企業が対応しなければならない「マイナンバー制度」。あなたの会社は対策しているだろうか。「そうは言っても……何からやれば分からない」。そんな企業の情シス担当者は、まずは「何を考え、実施するか」のキホンを理解しよう。