矛盾をマネジメントし、清濁合わせ飲む:日本式イノベーションの起こし方(1/2 ページ)
イノベーションは、上手くいくかいかないか分からない。しかし組織の資源を活用して普及させなければならないという矛盾を抱えている。マネージャーはどうすればいいのか。
イノベーターひとりではイノベーションは起こせない
ひとりの天才がいればイノベーションは起こせるのでしょうか? 答えはNoです。アイデアを思いついて考え抜く人と、ビジネスの形に仕立てて市場に普及させていく人は、別である方がうまくいくケースは多々あります。イノベーションの実現には組織の力が必要であり、成否を分かつのがイノベーション・マネジャーの存在です。
頭の中にあるだけでは、どんな素晴らしいコトも単なるアイデアです。アイデアは吐き出され、語り尽くされることが必要です。そこでは相手が要ります。対話が必要です。対話の鍵は共感です。
何か思いついたアイデアを内省し、磨き、相手に話したとします。相手は共感する。共感度が高ければ、強くうなずきます。そうすると何が起きるか? 話した当人にとっては、「自分が考えていることはひとりよがりではないんだ」「社会に必要とされているかもしれない」といった反応に繋がります。
共感されることで自分の考えが更に深まるきっかけとなり、イノベーションが促進されます。そのためにはアイデアを心から「聴いて」、「訊く」ことが必要です。
リクルートの現場でマネジャーから問われる「訊く」言葉があります。「お前はどうしたい?」この問いは、自分の志を問われるものです。「誰に何と言われようと、自分のアイデアを実現させたい」といった執念を呼び覚ます問いです。志を問われ続けることで、執念も磨かれます。
マネジャーはまず共感するべきです。コミュニケーションを、共感をベースとしたイノベーション型に変えるのです。そして、継続する。マネジャーが共感を基点として、イノベーションをリードしていくのです。
では、もう少しイノベーション・マネジャーのやるべきことを掘り下げてみましょう。
リ・ポジションを主導する
三井物産のイノベーション推進室では、初代室長に就任した高荷英巳氏が、三井物産をイノベーティブにするという非常に難易度の高いミッションに取り組みます。そのキーワードのひとつが「リ・ポジション」(自身の仕事の再定義)です。
高荷氏は言いました。「世の中が大きく変わっていくなかで、今までと同じ仕事内容、同じ仕事のやり方ではいずれ太刀打ちできなくなる。だったら、一度立ち止まって、自分の仕事を再定義してみよう」。まさに、イノベーション・マネジャーがなすべきことです。
仕事の再定義は自分の再定義でもあります。自分の仕事の顧客は誰か?顧客に対して提供している価値は何か?競争優位性はあるのか? 日本のみならず、世界でも通用するのか?
こうした自問自答を繰り返すことで、自分自身の再定義がなされていきます。それは、リストラといってもいい。リストラとは巷でいわれている痛みを伴う人員削減のことではありません。リ・ストラクチャリング、つまり再構造化のことです。イノベーションを起こすには、マネジャーが主導するリストラが必要なのです。
リストラを個人におろす
リクルートでは、イノベーターとマネジャーとの間で、リストラを日々行っています。Will Can Mustシートというキャリア開発ツールを使い、実施しているのです。
Willでは、自分はいったい何をしたいのか? 社会とどう関わりたいのか? どんな未来を創りたいのか? といったことを考えます。
Canでは、自分は何ができるのか? 何ができるようになったのか? それは価値のあるものなのか? を振り返ります。
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