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第3回:「意識を変えざるを得ない状態」を作ることで意識変革を促しTransformationを実践する激変する環境下で生き残るためのTransformation 〜コニカミノルタの事例に学ぶ〜(1/3 ページ)

企業のTransformationを実現するのは、実際にはその企業の人材である。従来通りの思考、働き方をしていてはTransformationは成し得ない。企業で働いている個々人にも、変革が求められているのだ。コニカミノルタは、この難題にどのように取り組んだのであろうか?その実践の考察を通じて、社員の意識変革の手法に関して考えてみたい。

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 企業を変革するのは、その企業で働く人である。どんなに合理性のある中計や戦略を策定しても、それを実行する人が付いてこなければ結果は伴わない。従来の考え方の延長で仕事をしていては、ちょっとした改善は行えても、Transformationという大きな変革を成し遂げることはできない。つまり、そこで働く人材には意識変革が求められるのだ。

 社員の意識変革というと、経営陣からの直接コミュニケーションや研修などを通じて、なぜ、どのように意識を変革して欲しいのかを経営が示すやり方がよく見受けられる。このような取り組みも重要であり、同社も相応に行ってきたが、それよりも経営陣が社員に対して「意識を変えなければならない状態」を作り上げることで、社員の意識改革を行ってきたように筆者には見える。

 つまり、人を「変える」ではなく、人が「変わらなければいけないという意識を強く持てる」ようにして、これを実践してきたように思われる。前2回のコラムでは、コニカミノルタの中核である情報機器事業を中心に考察を行ってきたが、今回は他の事業も含めて同社がどのような取り組みを通じて、このようなことを実践してきたかを考察してみたい。

 コニカミノルタは、2021年3月期連結売上高1兆5000億円(16年3月期見込比38.8%増)を目標に掲げている。この成長を牽引する事業の一つがヘルスケア事業であり、売上高を1700億円と倍増させる計画だ。今後は、AI(人工知能)の診断への活用、介護ケアサポート領域への展開などにより、介護経営や在宅医療の支援サービスを提供していく方針だが、これは今までに成し遂げてきたTransformationの一環、社員の意識改革の成果の上に成り立っていると筆者は評価している。

 この意識改革は、2011年に発売したカセッテ型のデジタルX線撮影装置(DR)にまで遡る。X線診断装置がアナログからデジタルのCR(コンピュータX線撮影)に変わった時には、違いが明確だったため、従来の医療事業者とのリレーションシップ・マネジメントの考え方で、販売を強化すればビジネスを伸ばすことができた。

 しかし、DRとCRはいずれもデジタル機器であるため、他社に対する優位性ばかりでなく、CRでのX線撮影との違い、DRを使用した時のX線技師や医者にとってのベネフィットが何かを相手に分かり易く伝えることが求められた。

 また、全国の病院から営業ターゲットを選定し、優先順位も策定した上で、デモなどを行って感触を探りながら営業をして行く、というような、従来の販売工程管理も同時に変革する必要があった。

 これらの課題に対応するためにまず行ったことは、開発メンバーの営業同行である。お客様は、DRのメリットを理解するために、当然のことながら専門的な質問をしてくるわけだが、自身の知識不足に不安がある営業は、恐怖心から新たな顧客へのアプローチを躊躇している様に経営陣の目には映ったからだ。

 技術者が営業をサポートすることで、営業には従来のリレーションシップ・マネジメントを超えた提案営業の重要性と実行可能性を体験させると同時に、開発者には現場のお客様の直接の声を通じて市場のニーズに即した開発の重要性を体感させたのだ。さらに、営業支援ツールとして、DRのベネフィットを分かりやすく説明したビデオも作製することで、営業がより積極的に活動できるようにサポートをした。(参照:事例の動画紹介

 DRはX線の被ばく量が少なく、コニカミノルタのDRは軽量で持ち運びができるため、さまざまな用途で活用可能である。例えば、小型のX線照射装置と合わせて使うことで、手術室での術後の体内残存物チェックや、救急車の中や災害現場での応急検査などでも活用でき、災害現場用としてはアタッシェケースに入れられたキットも作られ、東日本大震災でも貢献したという。

 このような、軽量である事、耐久性が高い事、無線利用の有用性など、さまざまな用途での具体的活用事例とメリットを医師や技師が語ったビデオを作製し、販売ツールとして活用していったのだ。この取り組みを通じて、お客様に新たな製品のベネフィットを理解してもらうためには、具体的なイメージを持ってもらうことがいかに重要かを営業に体験してもらい、その意識改革を促進したのである。

 このような取り組みは、その後のビジネスでさらに加速している。例えば、昨年発表したケアサポートソリューション(介護施設において入居者の行動を非接触センサーで検知し、介護スタッフにスマートフォンで知らせるシステム)の開発では、研究者が開発段階から現場に飛び込むアプローチが試行されている。

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