自動車産業で今後起こるDisruptiveな革新とシンガポールのポテンシャル――モビリティ・自動運転・デジタル化・EVの潮流:飛躍(1/4 ページ)
車両技術の発展にとどまらず、新たなサービスが出現し、移動方法やクルマの持ち方、関わり方までが変化する、プレイヤーや業界構造を根幹から変える劇的な革新が予想される。
最近、「破壊的な」という意味の「ディスラプティブ(Disruptive)」という言葉を耳にする機会が増えてきた。自動車産業におけるDisruptiveな革新が、今後10から15年の間に訪れるといわれている。それは車両技術の発展にとどまらず、新たなサービスが出現し、生活者の移動のあり方やクルマの持ち方、関わり方までが変化する……プレイヤーや業界構造を根幹から変える、劇的な革新が予想されている。
革新がいつどこでどのように起こるのか。企業はどう備え、先手を打つべきか。不確実性が高い中、ローランド・ベルガーは主要な25の指標をグローバル主要国で定点観測し、革新の兆候を先んじてとらえるための取組みを始めた。今回、第1回の観測により浮かび上がったのは、欧州・米国を含めたグローバル各国の中でも革新性を持つシンガポールの存在であった。
本稿では第1章でメガトレンドについて解説をした上で、第2章で定点観測の概要とその結果、第3章でシンガポールの革新性・ポテンシャルについて論じたい。
1.自動車業界のメガトレンド“MADE”
自動車産業におけるDisruptiveな変化の背景にあるのは、“MADE”という4つのメガトレンドである。これは「Mobility(新たな移動手段)」、「Autonomous(自動運転)」、「Digitalized(デジタル化)」、「Electrified(電動化)」の頭文字を取ったものである。
4つは互いに独立したものではなく、組み合わさることで大きなひとつのエコシステム(生態系)を形成している。それは、4つの「ゼロ」……交通事故ゼロ、クリーンエネルギーを活用したゼロエミッション、渋滞ゼロ、1台の車両を徹底活用した非稼働ゼロ、を目指している。
▼1.1 Mobility(新たな移動手段)
「クルマを自分で保有して使う」という従来の用法とは異なるかたちで移動需要を満たす手段として、カーシェア、ライドシェア、ロボットタクシーなどの「モビリティサービス(MaaS:Mobility as a Service)」が拡大してきている。MaaSにおける総移動距離は、2025年に1.4兆人キロに達する見込みであり、これは、世界中の総移動距離の6パーセントに該当する。
巨大なポテンシャルを背景にUberやGrab、Lyftなど、多額の投資資金を集めたプレイヤーがグローバルに事業を展開している。欧米のみならずASEANや中国、インドなどの新興国でも市場は広がっており、特にアジアの新興国ではタクシーより安価な一般ドライバーによるライドシェアが、庶民の足として新しい都市交通インフラになっている。
一方、既存のタクシー産業は打撃を受けており、例えばサンフランシスコではタクシー市場が3割以上縮小し、複数の事業者が倒産。インドネシアでも打撃を受けた地元タクシードライバーのデモ活動が強まるなど、MaaSの勃興による既存産業への影響は非常に大きい。
▼1.2 Autonomous(自動運転)
各OEM(完成車メーカー)における自動運転技術の実用化は、現在レベル2(加速・操だ・制動のうち複数の操作を同時にシステムが行う状態)を投入済/計画中の段階にある。
今後、レベル3(加速・操だ・制動全てをシステムが行うが、緊急時はドライバーが対応する状態)、レベル4(加速・操だ・制動全てをシステムが行い、ドライバーが全く関与しない状態)の実用化を目指し、各社、開発が激化している。但し、乗用車を対象としたレベル3以上の実現には、広域にわたる交通インフラの整備などが必要になり、ハードルはかなり高い。
▼1.3 Digitalized(デジタル化)
世のデジタル化と通信インフラの整備は、クルマにも大きな影響を及ぼす因子である。
クルマにさまざまなセンサーが付与されインターネットとつながり、ICT端末としての機能を有するコネクテッドカーが普及する。コネクテッドカーは車両の状態や周囲の道路状況などのさまざまなデータをセンサーで取得し、ネットワークを介して集積・分析することで、新たな価値を生み出すことが期待されている。
例えば、既に保険では実際の走行履歴や運転のクセに応じた保険料の柔軟な設定が行なわれている。他にも部品メーカーが遠隔診断を行う、シェアードサービス車両にテレマティクスサービスを提供するなどの事業機会が生まれている。
また、クルマのユーザーにとっても、デジタル化が進み販売チャネルがオンライン化したり、車両の状態や履歴がデジタルデータを通じて的確に把握されたりすることで、個別最適化されたサービスが広がり、利便性が向上すると期待される。
サービス開発の基盤として人工知能の活用も進む。但し、人工知能への投資は大きく技術者の争奪戦も激しいため、全てを自社で賄う企業は限られる。多くの企業にとってはいかに提携を活用できるか、ニーズに合致したパートナーと先んじて組めるか、が重要となる。
▼1.4 Electrified(電動化)
環境への配慮、また、車両コンポーネントの小型・軽量化、省ノイズ化に対応するためパワートレインの電動化は今後確実に加速していく。
但し、電動化の進展度合いは、環境規制順守への圧力、政府や自治体の後押し、充電設備の進化と普及、電池技術の進化、OEMの戦略シフトといった各要素に左右される。
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