「大切なことは、現地・現物、そして現場(それを使う人)。ユーザーの声に耳を傾け、加盟店ファーストで情報システムのあるべき姿を追求している」
そう話すのは、セブン&アイ・ホールディングスのシステム管掌、粟飯原勝胤 取締役 執行役員だ。イトーヨーカドーを中心とした約170店舗の総合スーパーや、いよいよ国内2万店舗に迫ろうとしているセブンイレブンなど、日本を代表する流通グループの情報システムを一手に引き受けている。昨年度からはセブン‐イレブンの店舗システムを10年ぶりに更新する大仕事に取り組んでいるが、お店の大半がフランチャイズ加盟店であるため、一筋縄ではいかない難しさがある。同社は加盟店からシステムの使用料をいただく立場にあるからだ。
「店舗システムのコールセンターには毎日100件以上のお問い合わせがある。改善要望やおしかりをいただくことも多く、貴重な現場の声として昨年度から着手した第7次総合情報システムにも生かされている」と粟飯原氏は話す。
粟飯原氏の下、同社事業システム企画部でセブン‐イレブンの情報システムを担当するチームでは、およそ80名のうち、営業部門をはじめとする現場から異動してきた社員が実に9割を占めている。粟飯原氏も第6次総合情報システム構築中だった2004年に営業部門から異動した。システム畑は初めての経験だったため、当初は「ここは日本語を話す外国か!?」と驚かされたが、現場出身の強みを生かし、加盟店に役立つシステムづくりを目指してきた。
セブン‐イレブンは、1店舗当たりの1日の平均売上高が65万円を超えている。競合するコンビニチェーンを10万円以上引き離しており、その稼ぐ力の源泉が「単品管理」にあることはよく知られている。
「セブン‐イレブンの強みは、商品開発力や販売促進施策はもちろんのこと、オペレーション・フィールド・カウンセラーによる単品管理や従業員の採用/教育といった、店づくりのコンサルティングに力を注いでいるところにある」と粟飯原氏。
同社の単品管理は、何が売れているのか、売れていないのかを見える化し、より売れる商品に入れ替えることで、売り上げと利益を高めていく取り組み。仮説と検証を繰り返し、業務を改善していくことが現場にしっかりと定着しており、これが他社に対する優位性にまで高められているという。
「狭い店舗ながら平均2900以上のアイテムを扱っていて、週に100アイテムは入れ替わる。情報システムによって死筋商品を分かりやすく見せ、コンサルティングによって成果につなげてきた」と粟飯原氏。
昨年度から構築に着手した第7次総合情報システムでは、さらに磨きを掛ける。新しい発注端末を介した、欠品による機会ロスの見える化に挑戦し、経験が少ないアルバイト店員でも欠品を防げ、さらに稼げる店づくりを支援していくという。
競合他社がIoTとAIによる半自動発注システムの構築に力を注ごうとしているが、そうした取り組みも仮説要因が多岐にわたる弁当や総菜についてはまだまだ難しいと粟飯原氏は感じている。
「お弁当のようなデイリー品では、オーナーや従業員の意思が売り上げを左右する。店頭POPなどを工夫することで売り上げが10倍になることもある。顧客にはお店の特色として映る、そうしたオーナーの意思を数値化することがこれからのチャレンジだ」(粟飯原氏)
第7次総合情報システムでは、加盟店の役に立つ新しいツールや、より便利になる機能がたくさん盛り込まれていく。例えば、34冊2700ページに及ぶマニュアルを電子化して検索できるようにするほか、今後は動画によるマニュアルづくりにも取り組む。より便利に、という点では、これまで商品を値下げする場合は、一度バックヤードに戻りストアコンピュータで設定しなければならなかったが、新しいシステムでは検品のためのハンディスキャナー端末から直接売り場で行えるように改善した。いずれもちょっとした改善だが、現場をよく理解し、加盟店ファーストを信条とする情報システム部門らしい、業務プロセスの改善につながるものだ。
「最近はITの進化が目覚ましいので、新しい技術でもっといろんなことができるかもしれないが、チームにはサービスモデル、システムモデル、そしてビジネスモデルという3層で考えるよう話している。その新しいサービスは顧客にとって便利なのか、加盟店にとっての利便性は? それを支えるシステムはどんなもので、それをやることによって加盟店は売上・利益が上がるのか、そこまで踏み込んで上流工程でしっかりと検討し、精緻化する。それがわれわれの品質に対するこだわりだ」(粟飯原氏)
セブン&アイではこうした概要検討をシステム部内でしっかりと行ったうえで、外部のパートナーと一緒に要件定義し、開発に入る。いったん要件定義が固まれば、仕様変更が起きることは滅多にないという。
「現場をよく分かっているわれわれと、技術のプロであるベンダーの役割分担は上手くできており、幸いなことにきちんとした信頼関係が築けている」と粟飯原氏。
セブン‐イレブンの国内店舗はまもなく2万店を突破する見込みだ。日本郵便の直営郵便局が約2万4千というからそれに肩を並べようとしている。
「2007年の新潟中越沖地震ではお店を再開したときに感謝されたが、2011年の東日本大震災では、営業し続けて欲しい、とおしかりを受けた」(粟飯原氏)
コンビニエンスストアには、安全・安心を提供する社会インフラとしての期待も高まっている。粟飯原氏の陣頭指揮の下、セブンイレブンでは2014年から「7VIEW」と呼ばれる災害対策マップのシステム構築を進めている。地図上に各種の情報を組み合わせて表示、現地で何が起きているのかを直感的に理解し、迅速かつ的確な初動につなげていくのが狙いだ。
弁当や総菜などを宅配する「セブンミール」も、当初の買い物弱者に対するサービスから、次第に働く主婦に利便性を提供するサービスへ、支えるシステムとともに進化を遂げてきている。
「今、ほとんどのオフィスビルには既にコンビニが入っているが、さらに利便性を高めるため、企業のオフィスにITを活用した無人店舗を開設できないか検討しているところだ」(粟飯原氏)
現地・現物、そして現場を大切にする粟飯原氏らしいアイデアだ。
取材にあたり、名古屋大学 大学院情報学研究科 准教授の森崎修司氏に協力を得た。森崎氏が委員長を務めるソフトウェア品質シンポジウム 委員会では、9月14日、15日「ソフトウェア品質シンポジウム2017」を開催する。9月15日の特別講演には粟飯原氏が「セブン‐イレブンの総合情報システム“近くて便利”を支えるシステム構築と品質」をテーマに登壇し、より詳しい話を聞くことができる。
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