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「創造生産性」の高い豊かな社会――ありものを使い倒して、お客さま起点の価値を創出視点(1/3 ページ)

日本中で、新たな価値が量産され、それが輸出されている。こんな世界観を実現したい。

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Roland Berger

 日本の生産性が欧米と比べて低い。最近こうした話がよく聞こえてくる。

 納得がいかない。

 日本には世界がうらやむ技術や突破力がある。確かに、時間を費やして得た能力かもしれない。だから生産性が低いのかもしれない。でも、だったらなおさら使い倒したい。使い倒して、世界が欲する新たな価値を生み出していきたい。

 こんな思いから「創造生産性」という言葉が頭に浮かんだ。いかに残業をなくすか、いかに効率的に物事を進めるか。これらとは全くことなる発想だ。

 生み出す価値を、お客さまにとって新しく、そして大きくすれば、時間についてどうこう言わない。このくらいの意識で良いと思う。

 日本中で、新たな価値が量産されている。それが輸出されている。こんな世界観を実現したい。日本ならできると思う。今日この日から第一歩を踏み出していきたい。

1、活気あふれる社会

 インターネットが世界の進化を加速し、アップルやFacebookが日頃の人と人とのコミュニケーション量を飛躍的に増大させた。いずれも、人々が利用してみて、その良さを実感する中で、いつの間にか当たり前のものとして人々の生活に入り込んでいる。irobotのロボット掃除機ルンバは、掃除の常識を変えた。主人が留守の間に活躍する。威力を発揮するのは、整理整頓され床を自在に走り回れる家に限定されるが、ユーモアのある動きから愛される存在になっている。「新しい!」、人々が「いいね!」と感じたもの、イノベーションがあると、生活が楽しくなるのだ。

 シェアリングエコノミーのウーバーやAirbnbもイノベーションの代表例である。両社とも、安価な移動や宿泊というユーザーメリットを創出し、瞬く間に世界中に普及してきた。一方で、既存の業界に大きなダメージももたらしたことから、破壊的なイノベーションとも言われている。少し注意も必要だ。新しいものがたくさん生まれている。小さな刺激や大きな刺激があるのはとてもいい。でも、ダメージを受ける人が多すぎるのは良くない。大事なことは、いいバランスで安定と新陳代謝があり、その中で常に面白さや刺激、そして発見がある。こんな世界が求められているのではないだろうか。

 イノベーションを生み出す供給者側としては、社会を、多面性を持ったお客さまと捉えて、社会にさまざまな刺激や発見を数多く生み出すことが重要だ。できれば、それぞれのイノベーションで主役が入れ替わるのが望ましい。活気のある社会をみんなが支えている。みんなが挑戦している社会こそが生み出したい世界だ。団塊の世代が生み出した当時の高揚感を平成の次の時代に実現する。今から準備をして早急に達成していきたい。

2、創造生産性とは

 キーワードは「創造生産性」だ。(図A参照)高い創造生産性は、新しい価値を少ないリソースで量産できていること。つまり、最近の働き方改革、人口減少社会の中でもイノベーションをたくさん生み出している状況だ。分子は、新しい価値の総和で、それぞれの新しい価値にお客さまが支払った対価の合計である。分母は、掛けたリソースの総和で、価値を生み出すのに掛けた人、機械、AIの時間やコストの合計である。

 創造生産性を高めようとする際、最も重要なことは、まずは分子にのみ着目して、分母を忘れることである。定義で示したが、生み出すものは刺激や発見をもたらす新しい価値でなくてはならない。お客さまがより高く買いたくなる理由が必要だ。お客さまの価値起点、アプリケーション起点を突き詰めることが近道だ。

 こうした新しい価値をたくさん狙いに行けば、分母の効率化とは違った可能性が生まれる。新たな価値で収入をあげる。同一の固定費で、例えば売上を2倍にするイメージである。これまでの売り物にとらわれず、自部署の技術や歴史にとらわれず、お付き合いしているお客さまの笑顔をあらゆる手段で生み出すという妄想をしてみることから始めればよい。

 こうした話をすると、話は分かるがそんな時間はないという「鶏と卵論」が出てくる。そうであれば、まずはついで売り、データ売り、場所貸しなど、隙間時間やアセットの収益化から入ってもよい。同一売上で固定費2分の1を目指して、組織を単階層化し、直接の付加価値にならない活動を撲滅していく。併せて、作業の標準時間を短くしつつ、設備ならぬ人の「寄せ止め」をして人員を捻出しても良い。その際、難易度の高い新たな価値の創出に活用すべき人材は一番優秀な人である。残った人材には抜けてできた大きな穴をしっかり埋めてもらう。そうすれば、分子の新しいものが生まれる期待が膨らむ上に、組織に属する全員が成長できる。さらには、そこから新たな一番優秀な人材が生まれるのだ。

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