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» 2019年09月11日 12時00分 公開

東大修士の「林業女子」 震災復興の現場で活躍

東北とほとんどかかわりのなかった東京大大学院の修士号をもつ「林業女子」が移住し、町の特産品である杉の残材を利用した木質ペレットによるバイオマスエネルギー事業育成の中核となって活躍している。

[産経新聞]
産経新聞

 東日本大震災で甚大な被害を受けた経験から「人と環境にやさしく、災害に強いまちづくり」の一環としてバイオマス産業都市構想を推進している宮城県南三陸町。それまでは東北とほとんどかかわりのなかった東京大大学院の修士号をもつ「林業女子」が移住し、町の特産品である杉の残材を利用した木質ペレットによるバイオマスエネルギー事業育成の中核となって活躍している。震災から8年半。若い世代による新たな復興支援のかたちである。(編集委員 関厚夫)

「林業女子」の佐野薫さん。震災復興と林業、現場と学問の橋渡し役として厚い信頼と期待を受けている=宮城県南三陸町(関厚夫撮影)

 「地域のために生きてゆくこと、斜陽産業と言われている林業の復興を考えることをライフワークにしたいと考え、それを実現できる自治体を探していたところ、希望通りの募集していたのが南三陸町でした」

 そう話すのは佐野薫さん(29)。千葉県に生まれ、宇都宮大農学部と東大大学院農学生命科学研究科修士課程で森林科学を専攻。昨年末、町内の「未利用資源の活用」を目的とする合同会社MMR(設立.2015年)の事業企画推進を担当する南三陸町地域おこし協力隊員(同町非常勤特別職)に就任した。

地元から強い期待

 MMRはそれぞれ林業・運送業・土木建築業を専門とする3社で構成。佐野さんは現在、木質ペレットの原料となる丸太を安定的に確保するために地元森林組合や所有者との連携役を務めるとともに、MMRと南三陸町の連絡・調整、また木質ペレットを燃料とする暖房用ボイラーの販路開拓も担当している。

 また将来的には町内にペレット製造工場を建設し、「震災からの復旧ではなく復興、また歴史的に自然災害や過疎問題に直面している地域におけるエネルギーの自給自足モデルを確立し、同様の悩みを抱える地域にも“横展開”できれば」(佐野さん)という。

 そんな佐野さんに地元は厚い信頼を寄せている。MMR代表で、江戸時代から続く林業「佐久」専務の佐藤太一さん(34)は「佐野さんはともすれば『本業』に目がゆきがちなわれわれを束ねてくれる大事なキーマン。『協力隊員』の任期(3年間)に関係なくできるだけ長く、地域の自立と林業復興に力を貸してほしい」と話す。

元日本酒バーの店長

 実は佐野さんは修士課程修了後、大手外食チェーン店に就職し、1年半にわたって東京・神楽坂の本格和食居酒屋と隣接する日本酒バーの店長を任されていた。この「異業種への挑戦」は学生時代、木材業界専門のコンサルタント会社で3年間にわたってインターンを経験したことがきっかけだったという。

 「インターン期間中にお会いした地域経済の成功者の方々はみな『人間力』があり、その経営力の基盤には確かな人事マネジメントがありました。私は理論から入るというか、『頭でっかち』なところがあったのでそうした人間力を養いたいと思い、あえて専門外の世界に飛び込みました」

 そこで自信と経験を得たうえで南三陸町へ。佐野さんは語る。「研究と現場の関係を考えたとき、学者がいくら『これが理想だ』と言っても、『わかっているけどできないから困っている』という側面があります。また研究と現場のどちらが好きかというと、私は現場の人と頭を悩ませながら、着実に一歩一歩踏みしめてゆく方が好きですし、現場に入ってゼロからつくりあげ、世の中を変えることができる人間になりたい−。そう感じています」。

 一方、そんな佐野さんに東大大学院時代の恩師、古井戸宏通教授はいまだ未公表の修士論文をベースに南三陸町での経験を加味した博士論文をまとめ、それを発表するよう勧めている。

 「現場に精通するだけでなく、それを学術的な言葉で表現し、現場の経験を国や地域といった視点で俯瞰(ふかん)的にとらえることは非常に重要です。『現場に恩返しをしたい』という強い気持ちを持つ一方、日仏の林業比較に関する英語の研究報告を海外で行った経験をもつ彼女は、それができる貴重な人材であると確信しています」

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