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» 2020年07月06日 08時28分 公開

どう変わる? ポストコロナの美術館 片岡真実・森美術館館長に聞く

少しずつ再開し始めている。ポストコロナの新しい日常の中で、美術館はどのように変わっていくのだろうか。

[産経新聞]
産経新聞

 マスク着用はもちろん、入口で検温、鑑賞は密を避けて−。新型コロナウイルス感染防止のため臨時休館を余儀なくされていた美術館・博物館も、少しずつ再開し始めている。ポストコロナの新しい日常の中で、美術館はどのように変わっていくのだろうか。森美術館(東京・六本木)の館長であり、国際美術館会議(CIMAM)会長も務める片岡真実さんに聞いた。  (文化部 黒沢綾子)

オンライン予約、浸透へ

ポストコロナ時代の美術館運営について、インタビューに応じる森美術館の片岡真実館長(宮崎瑞穂撮影)

 −−森美術館も7月31日に再開し、「STARS展:現代美術のスターたち−日本から世界へ」が開幕しますね

 「やっと再開が決まり、ちょっとホッとしました」

 −−入場者数を管理し密を避けるため、多くの館が再開を機に日時指定のオンライン予約制を採用しています。「STARS展」でも導入するそうですね

 「ソーシャル・ディスタンシングは、コロナをめぐる状況次第で若干緩和されていくのかもしれませんが、オンライン予約の普及は加速するでしょう。地方の美術館では来場者の年齢層が比較的高く、窓口でチケットを買いたい方が多いと聞きますので完全にオンラインに移行するとは思いませんが、都市部を中心に浸透していくでしょう」

 −−昨年、森美術館の「塩田千春展」は約67万人を動員、1日あたり5000人超が訪れたことになる

 「塩田展の入場者数は開館(2003年)以来、歴代2位の特別なケースで、現代美術の展覧会はふつう、放っておいても密にならない(苦笑)。それはさておき、今は一定数を超える人を入れられませんが、一方で美術館は観覧料に依存する部分も大きい。ソーシャル・ディスタンシングをどう維持しながら目標の入場者数に近づけるのか。メディア各社が関わる、大量動員を前提にした大型展などはなかなか難しいかもしれません」

問われる企画力

 −−入場者数を制限すると、採算と折り合わなくなる…策はありますか?

 「例えば、展覧会の会期を長くする。『STARS』展も来年1月3日までとし、来年度以降も展覧会本数を年間2本くらいとし会期を長期化することにしました。展覧会の本数を減らし制作費など投資を抑える。一つの試みです」

 −−すると、企画力が問われますね

 「その通りです。人が入らない展覧会は、会期を長くしても入らない。長期化に耐えうるコンテンツの強さが求められる」

 −−展覧会観覧料が全体的に上がっていく可能性は?

 「あるかもしれません。これまで行列しないと見られなかったものが、余裕を持って鑑賞でき、体験の質が上がるとも言える。いずれにせよ今後は各館が、会期や開館時間、料金などいろんな部分を調整しつつ、持続可能な経営モデルを模索することになるでしょう」

コレクション重視へ

 −−コロナで国際的な企画展のリスクも顕在化した

 「日本の美術館は企画展重視の傾向がありますが、コレクションや常設展をより充実させて『いつもこの作品があるから行く』という場に転換を試みてもいい。例えば国内各館が所有する、ある作家やある分野の“ベスト・オブ・ベスト”を集めて巡回させるなど、収蔵品を生かした新しい試みも考えられる。各館がコレクションを拡充する上で、国内アーティストの作品を購入することも、アートシーンの回復へ必要な配慮でしょう。

 とはいえ、森美術館は『国際的な現代美術館』。世界の動向を反映した企画も続けていくつもりです」

リアルとオンラインの連動へ

 −−臨時休館中も、各館は公式サイトやSNSを通じて自宅で楽しめるコンテンツを提供するなど、オンラインの活用が目立ちました。森美術館も「MAMデジタル」を立ち上げ、「ステイ・ホーム、ステイ・クリエイティブ」を掲げた期間限定プログラム(7月31日まで)を展開中ですが、オンライン・プログラムに可能性を感じますか?   「会期途中で終了した『未来と芸術展』3Dウォークスルー映像や、世界中の作家から寄せられた料理レシピをSNSで紹介する『アーティスト・クックブック』などは反響が大きかったです。

 オンライン・プログラムは、映像作品やトークなどの記録を公開するものと、観客に何かをつくる提案をするコンテンツに大別できる。ロックダウン中、外出自粛中の人々へ、多くの美術館がデジタル・コンテンツを無料提供していましたが、実は制作にも結構お金がかかる。質を保つには今後、有料化もやむを得ないのかなと思います」

 −−オンライン・コンテンツが大きな収益源になる可能性は?

 「まだ具体的には見えていません。でも、展覧会チケットとオンラインの有料プログラムの連動は考えたい。例えば映像作品を主とした展覧会は、時間的に全部見られないことが多いですよね。会場の大空間で見る醍醐味も体験でき、かつ全体のストーリーをオンラインで見られる。そんなリアルな展覧会とオンライン・プログラムの連動、フィジカルな体験と情報の融合はアリでしょう」

芸術の力、示すとき

 −−世界の近現代美術館関係者が集まるCIMAMは4月下旬にいち早く、パンデミック下で美術館が注意すべき20項目を公開しました

 「今もオンライン会議を通じて、国際的な情報共有を進めています。コロナ禍でさまざまな社会システムが一旦停止を余儀なくされたことで、これまで見えなかった社会構造の脆弱な部分が表面化してきた。(黒人差別解消を訴えるスローガン)『ブラック・ライヴズ・マター』をめぐる動きもそう。美術館としても、こうした社会的課題を今後、直視し取り扱わざるを得ない状況になる。それは作品にも反映されていくのではないでしょうか」

 −−あらためて、美術館の役割とは

 「コロナでまさに今、困難に直面している方が多くいる中で、それでもなお、私は『人はパンのみにて生きるにあらず』という言葉を思い出します。パンも心の糧も確実に必要で、そのバランスが大切です。

 パンデミックの中で今回、多くの人が『日常』について、生と死について…普段はあまり考えない本質的、根源的な問いを同時に考えることになった。それはとても特別な時であり、そういう状況下で芸術が果たしうる役割は小さくない。美術館も何を提供できるのかを改めて考え、存在意義を社会に認識してもらえるよう活動していきたいと思います」

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