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» 2020年09月21日 13時29分 公開

目標は水戸黄門、勧善懲悪で100冊 池井戸潤さん

高視聴率をたたき出しているテレビドラマ『半沢直樹』の原作最新作が講談社から刊行された。ファン待望のシリーズ5作目『アルルカンと道化師』は、1作目の前日譚という位置づけ。

[産経新聞]
産経新聞

 痛快で魅力的なミステリー作品を書き続けている作家、池井戸潤さん。高視聴率をたたき出しているテレビドラマ『半沢直樹』の原作最新作が講談社から刊行された。ファン待望のシリーズ5作目『アルルカンと道化師』は、1作目の前日譚という位置づけ。東京中央銀行大阪西支店を舞台に、融資課長・半沢直樹はどんな活躍を見せるのか。


元銀行員の池井戸潤さん。「『半沢直樹』の登場人物にモデルはいない」と話す(三尾郁恵撮影)

 激しい出世争いや陰謀渦巻く銀行組織で、信念を貫くバンカーの戦いぶりを描く同シリーズ。現在、放送中のドラマは3作目『ロスジェネの逆襲』と4作目『銀翼のイカロス』が原作。IT企業買収や大航空会社の再建に奮闘した半沢だが、本作は時をさかのぼり、肩書も支店融資課長という「ちっぽけな存在」に舞い戻る。

 「3作目、4作目では戦う相手が大きくなる一方、銀行員目線からかけ離れてしまったことが気になっていました。国家相手に戦って何百億円の債権放棄といわれても、ピンとこない人も多いでしょう。今回は原点に戻り、中小零細企業を取引相手にする卑近な戦いを描きたいと考えました」

 『アルルカンと道化師』というタイトルも意味深長だ。ずる賢い「アルルカン」と純粋な「ピエロ」はイタリアの即興喜劇の登場人物。ピカソやセザンヌも作品に取り上げたことのある人気キャラだという。

 「以前手にした画集に載っていた仏画家のアンドレ・ドランの『アルルカンとピエロ』が印象に残っていて、この絵画を道具にミステリーが書けるんじゃないかという冒険心が生まれました」

 大阪西支店の取引先である老舗美術系出版社に、ITベンチャーが買収を画策するところから物語が始まる。「アルルカンとピエロ」は出版社と縁のある有名画家の代表作として登場。謎解きの軸となる。

 「アート」を正面から扱った展開はシリーズに新風を吹き込む一方、今回もサスペンス要素は満載だ。


 1作目の連載が始まったのは平成15年だった。

 「当時銀行に関するニュースは貸し渋りなどの話題が多く、小説でも悪者扱いが多かった。でも元銀行員からすると、もっと違う面もあるわけで、もう少し前向きで、面白いエンターテインメントにできるはずだと思って書いていました」

 デビュー後数年間は作風について試行錯誤を繰り返していたと振り返る。

 「1年のうちに違う種類の作品を何冊も出して、色んなことを試したんです。徐々にわかってきたのは、プロットで小説を動かしたら面白くないということ。登場人物の動きをリアルに考えて、登場人物が動くことで小説が動く。そういう手法に変えてみたら、自分でも面白いと思えるようになりました」

 『半沢直樹』の1作目と2作目は、作風が変わる過渡期の作品だった。

 「読み返すと、試行錯誤をしていたころのタッチだと思いますね。今回は登場人物重視の作品です。1作目と同じ大阪西支店の物語ですが、読み比べると感慨深いものがありますね」


 大ヒットの起爆剤は25年のドラマ化だった。

 「サイン会にいくと、小学生から80代のおばあちゃんまでいらっしゃる。層の広い相手にどう読んでもらうかが難題です。漢字にルビをふる。専門用語は使わない。ストーリーを複雑にしない。分かりやすさを追求する工夫を大事にしています」

 半沢と敵役。その対立が際立つほど、「倍返し」という名の逆転劇に胸がすく。『半沢直樹』を“令和の水戸黄門”と呼ぶ声もあるが……。

 「水戸黄門には負けますよ(笑)。でも、水戸黄門は目標です。勧善懲悪といわれようがなんだろうが、そのパターンで100冊くらい書き続けたい。半沢は課長か次長のままがいい。偉くなると、面白くありませんから」


3つのQ

Qステイホーム中の息抜きは?

小説を書くことが息抜きでした。ゴルフに行くほうがストレスがたまるので

Q『半沢直樹』には居酒屋のシーンが多いが、好きなメニューは?

献立にある「本日の料理」は必ず頼みます。なじみの店には支援のつもりで顔を出しています。

Qもし今大学生だったらどんな業界に就職する?

業界の雰囲気がおおらかな海運業。またはIT業界。

    (文化部 篠原那美)


 いけいど・じゅん 昭和38年、岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒。平成10年『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。22年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、23年『下町ロケット』で直木賞を受賞。主な著書に「半沢直樹」シリーズ、「下町ロケット」シリーズ、「花咲舞」シリーズ、『空飛ぶタイヤ』『ルーズヴェルト・ゲーム』『七つの会議』『陸王』『民王』『アキラとあきら』『ノーサイド・ゲーム』などがある。

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