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» 2021年08月13日 09時13分 公開

何でも接着するボンド 工作から世界遺産まで

工作には欠かせない、黄色のボディーに赤いキャップでおなじみの「ボンド木工用」は昭和32年に、大阪で誕生した。

[産経新聞]
産経新聞

 工作には欠かせない、黄色のボディーに赤いキャップでおなじみの「ボンド木工用」は昭和32年に、大阪で誕生した。接着剤では抜群の知名度を誇るが、製造元のコニシ(大阪市中央区)の広報マンは以前、こんなことを言っていた。「有名なのは木工用だけ。ほかに何千種類とあるんですけどね」。いったいどんなボンドがあるというのだろう。接着の原理や誕生のきっかけは? そんなボンドにまつわる疑問を探った。

アンコール遺跡群の保存補修にも貢献。砕けた石像もボンドでしっかり接着できる

木工用に誕生秘話

 薬の街、大阪・道修町の本社ビルを訪れた。待合室には両手で抱え込むほど大きな黄色の?ボンドクッション?がちょこんと置かれ、心が和む。

 昭和27年、英語で「つなぐ、接着する」の意味を持つ「ボンド」の名前で同社が世に送り出した最初の合成接着剤は紙用だった。

販売初期の家庭用のボンド木工用。小型チューブで容器は緑色だったという

 「電話帳の背貼りや紙袋を作る際に用いられたようです」と話すのは、昨年、創業150年を迎えた際に社史づくりに関わった経営企画室リーダー、中谷光宏さんだ。当時、分厚い電話帳は針金でとじられていたが、開きにくいなどの欠点もあって、製本に接着力の強いボンドが使われるようになったという。

 家庭向けの木工用は32年に発表された。「新聞記者が、げたの歯を修理する際にボンドを試すとうまくいき、これが誕生のきっかけになったといいます」

 使いやすいチューブ入りで、学校用教材として人気となり、接着剤の代名詞のような存在に。一方で、コニシでは木工用以外にも多様なボンドの研究開発を続けた。今、その数はなんと5千種以上にのぼる。

遺跡もおまかせ

 紙や木だけでなく、金属や石、コンクリート、ガラス、ゴム、布など素材ごとに専用の接着剤がある。

 生産工場にも出入りするという経営企画室の小林達也さんは「何十トンという大釜をはじめ、サイズの異なる釜がいくつもあって、用途別の材料を入れた白や透明、グレーのボンドが機械でグルグルかき混ぜられています。あとから青や緑に着色するものもありますね」と製造工程の一部を説明。こうしてつくられたボンドは家庭用から電子部品、土木建築用まで用途も幅広い。

 建て替えの難しい高速道路やトンネル、ビルなどの補修工事では、経年劣化によってひび割れた箇所にボンドを注入したり、橋桁の表面をボンドで塗り固めたりして強度を高めている。

 小さくてデリケートな電子部品用にもニーズがある。例えばスマートフォンは、液晶周りのカバー部分と強化ガラスの貼り付けのほか、層状構造になっている内蔵スピーカー部分を固定している。

 また屋外の作業に便利な、水にぬれても固まる「水中ボンド」は、海中でサンゴを岩に固定するなど意外な使われ方も。

海中で、水中ボンドを使ってサンゴを岩に固定しているようす

 世界遺産のアンコール遺跡群(カンボジア)の保存修復だっておまかせだ。従来、コンクリートでしかできなかった外観の補修方法を改め、接着剤と砂岩粉末を混ぜて継ぎ目を補強し、砕けた石像を接着して再生。実は国内有数の重要文化財の補修にもボンドが使われていることは、あまり知られていない。

万能接着剤は?

 一方で、ボンドでくっつきにくい素材もある。

 小林さんが「木工用の黄色いポリエチレンの容器は接着が難しい素材のひとつ。フッ素加工のフライパンもです」と教えてくれた。だからこそ、何千種類もの製品があるのだ。

 接着する仕組みを大きく分けると、木工用のように接着剤中に含まれる水や溶剤が蒸発して固まる「乾燥固化型」と主剤と硬化剤を混合すると固まる「化学反応型」、熱を加えると液状になり冷えると固まる「熱溶融型」、そして固まらず粘着性を保持する「感圧型」の4タイプがあるとされる。しかし、それぞれ得意分野は異なるようだ。何でもくっつく?夢の接着剤?はないのだろうか?

 小林さんは「接着の原理にはまだ解明されていない部分もあるんです」という。営業時代、得意先からの疑問や相談を受けるたびに同社の研究所へ通い、時には性能試験に加わって知識を深めたという小林さん。「もし、あらゆる素材に共通する接着の原理が判明すれば、1種類の接着剤ですべてをまかなえるようになるかもしれません」と不敵な笑みを浮かべた。

 ボンドの知識を深めて本社ビルを出た。道路を隔てた北隣には、堂々たる明治の建築物が見える。昨年、史料館へ生まれ変わったコニシの旧本社だ。建物を見上げて思う。

 「この風情ある建屋にもきっと、どこかがボンドの力で修復されているに違いない」

 勝手な解釈に自己満足してその場をあとにした。(北村博子)

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