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» 2022年02月21日 08時27分 公開

移動の変革MaaS 鉄道各社が争うデータ取得

次世代移動サービス「MaaS(マース)」の本格導入に向けた取り組みが関西でも始まった。

[産経新聞]
産経新聞

 次世代移動サービス「MaaS(マース)」の本格導入に向けた取り組みが関西でも始まった。官民による組織が令和3年末に立ち上がり、7年開催の大阪・関西万博での活用を念頭に、4年度中に鉄道会社を中心にスマートフォンアプリの運用開始を目指す。ただ、関係者が「課題は相当ある」と口をそろえるように、データ管理や費用負担など今後の検討材料は山積している。自前でアプリを持つ鉄道会社間の主導権争いも激しくなりそうだ。

送迎サービスや観光案内も

 3年12月、普段は競合する鉄道各社の関係者が大阪市内に集まり、「関西MaaS推進連絡会議」の初会合が開かれた。主催した近畿運輸局の金井昭彦局長は「競合関係にある事業者が議論するのは画期的。他の事業者や日本国際博覧会協会とも連携していけば、これまでに例のない本格的なMaaSになる」と意義を強調した。

 鉄道会社のほか、タクシーやバスの業界団体、経済団体、さらに自治体、国の出先機関など計20以上の団体が参加。同局によると、交通関係の団体が業界横断的に参加する取り組みは全国でも異例という。

 会議では、4年度内に鉄道会社を中心にアプリの運用開始を目指すことで合意。大阪万博に向けて順次サービスを拡大していくことを確認した。具体的な内容は決まっていないが、公共交通以外にもホテルやイベント会場への送迎サービスを含めた乗り換え案内、観光スポットの紹介といった観光分野とも連携する。

 万博会場の人工島・夢洲(ゆめしま)へのアクセスでは、新幹線、空港からの運賃決済や混雑していないルート案内を一元化。関西の観光情報も配信して、各地の周遊につなげることを想定する。「アプリがあれば関西一円を観光できる」(会議関係者)ことが目標だ。

乱立するアプリ

 関西MaaSでは、会社をまたいだ定額乗り放題や混雑のピークを避けた際の割引サービスなども視野に入れる。ただ、関係者の多くは「どこまで本当にできるのか」と半信半疑なのが現状だ。

 システム運用や開発費の負担など課題は多い。鉄道会社の幹部が「みんながほしいのはデータ。どこまでデータを使う権利があるのかが重要」と話すように、データの取り扱いが最大の争点になる。

 MaaSを通じて集積されるデータはビジネスチャンスの宝庫だ。どこに住む人がどんなルートを使って目的地に向かい、道中どの施設を利用し、何を買い、何を食べるのか。すべての情報が沿線利用者へのマーケティングに直結する。複数企業が参加する今回のプロジェクトは、自社だけでは手に入らないデータを得る絶好機といえる。

 これまで各社は自前のアプリ開発に力を入れてきた。JR西日本は「WESTER(ウェスター)」(1月中旬までに約25万ダウンロード)、近畿日本鉄道は「近鉄アプリ」(3年12月までに約46万ダウンロード)など、自社アプリで多くのユーザーを抱える。

 アプリでは運行情報のほか、沿線の観光案内や自社施設の割引クーポンなどを提供し、グループ内での消費回りにつなげようという狙いがある。

 各アプリの連携は一部にとどまり、他社路線に乗り入れる電車の位置情報を見るには別々のアプリが必要になる。例えば、山陽電気鉄道では山陽姫路駅(兵庫県姫路市)から阪神電気鉄道の大阪梅田駅(大阪市)まで直通運行があるが、山陽のアプリでは西代駅(神戸市)までで、それより東側では阪神のアプリに切り替えなければならない。

 阪急阪神ホールディングス傘下の阪急電鉄と阪神で別のアプリがあるなど、京阪電気鉄道を除けば主要各社が自前で開発する。一元的なアプリがないだけに、関西MaaSでアプリが生まれることへの期待は大きい。

 ただ、それは現状では共有化が難しいことの裏返しともいえる。ハードルが低い乗り換え案内程度にとどまれば、「既存サイトで十分となりかねない」と関係者は口々に言う。

妥協点見いだせるか

 一方で、関西MaaSとは別に各社が個別に進めるMaaS開発は経営の浮沈を握る存在になりつつある。大阪メトロは3年3月に配信したアプリで、必要なときにスマホから呼び出す「オンデマンドバス」の実証実験を進める。

 路線バスは新型コロナウイルス禍の影響などで86系統のうち82が赤字見通し。河井英明社長は「基幹路線は定期運行でいいが、需要の低い路線はオンデマンドでニーズに合わせないといけない」と強調する。MaaSの浸透は、乗客の利便性維持とコスト見直しを両立させるカギとなる。

 また、コロナ後に利用者数が回復しないことを前提に、グループ内の囲い込みにつなげる狙いもある。JR西の長谷川一明社長は自社のアプリを通じて、鉄道やホテルなどで利用者ごとに大幅に料金を割り引くサービスの導入を目指す。アプリ経由でユーザーと直接つながることで、「お客さま一人一人にきめ細かくアプローチできる」(長谷川氏)というわけだ。

 各社の取り組みが進めば、先行する企業は独自の経済圏を構築し、関西MaaSへの動機付けが弱くなりかねない。関係者らは「共同開発するアプリだけに統合しなくていい」としており、データの提供や費用負担で妥協点を見いだすのは容易ではない。

 関西MaaS実現に向けては、定期的に開かれる実務者レベルの協議でどこまで譲歩できるかが焦点になりそうだ。(岡本祐大)

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