ソニーグループの電気自動車(EV)戦略がみえてきた。1月以降、矢継ぎ早にEV戦略を発表しているが、そこからうかがえるのは車載向けの基本ソフト(OS)を核にしたEVビジネスだ。EVの進化を支える?頭脳?をいかにして押さえるかがカギを握る。
ソニーは今月4日、ホンダとの提携を発表。ホンダと共同で、年内にEVの新会社を設立し、そこで企画設計・開発・販売を行う。初期モデルはホンダの工場で生産し、令和7年の投入を目指す。
EV試作車「VISION−S」を開発したため、ソニーのEV事業は車両に注目が集まる。だが、ホンダとの提携で見えてきたのは、車載OSに照準を定めている可能性だ。
それは会見での吉田憲一郎会長兼社長の発言からもうかがえる。吉田氏は「モビリティー(乗り物)は、技術やビジネスモデルがモバイル化してくると感じている」と述べた。念頭にあるのは、OSを握った企業が市場を牛耳るスマートフォンの歩みだ。
スマホはOSの更新によって新たなサービス機能やアプリを利用できるようになる。スマホOSは、アップルと米グーグルが独占し、巨大企業となったが、成功した要因としてアプリとコンテンツを提供するプラットフォームを押さえたことが大きかった。
アップルは、端末の生産こそ外部企業に委託しているものの、端末の開発やOS、アプリの提供までを自社で行う垂直統合モデルを採用している。一方のグーグルはOSを端末メーカーに無償提供するが、プラットフォームは自社で管理し、スマホから得られるデータを一手に握る。
EVも車載OSが進化のカギになる。ホンダとの会見の際、プラットフォーマーを目指すのか問われた吉田氏は「これからの車は人を認証してサービスを提供するようになる。機能を更新し、必要があれば課金を行いたい。その機能をサポートする位置づけを考えている」と述べ、否定しなかった。
こうしたソニーのEV戦略にとって、重要になるのが近く設立する「ソニーモビリティ」だ。車載OSを基にモビリティーのサービスプラットフォームの開発を担う。開発したプラットフォームは、ホンダとの新会社はもちろん、他のEVメーカーへの採用も狙う。
ソニーでEV開発の責任者を務める川西泉常務はEV参入の理由について、「(EVが)ITの形を取り込めるモビリティーに変化させられる見通しが立った」と説明している。それは裏を返せば、車載OSを提供できるめどが立ったとの見方もできる。
ソニーがEVで目指すのは「エンターテインメント」「適応性」「安全性」の3点だ。安全性は自動運転、適応性は個人認証をベースとした最適なサービス提供、エンターテインメントは映画やゲームなど移動空間の娯楽となる。いずれもOSをベースとしたプラットフォームからサービスが提供される。ソニーが描くのはソフトを軸にサービスが更新される「走るスマホ」だ。
既に車載OSをめぐる動きは活発化。トヨタ自動車や独フォルクスワーゲン、米ゼネラル・モーターズなど既存の自動車メーカーだけでなく、新興の米テスラや中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)などが自社開発している。
EV参入が取り沙汰されているアップルも開発を進めているとみられ、グーグルもホンダの北米向けの新型EVなどへの供給が決まっている。こうした中で、他社にないサービスプラットフォームをどう作り出すのか。ソニーのEV事業の成否はその1点にかかっている。(黄金崎元)
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