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» 2022年03月25日 09時10分 公開

「人生100年時代」はスマートモビリティ 大阪南部で実証実験 万博での活用も

「人生100年時代」といわれ、元気に外出したいと考える高齢者が増える一方、市街地から離れた地域は、鉄道やバスなどの公共交通機関が少ない。

[産経新聞]
産経新聞

 「人生100年時代」といわれ、元気に外出したいと考える高齢者が増える一方、市街地から離れた地域は、鉄道やバスなどの公共交通機関が少ない。大阪湾臨海部から山間部まで市域が広がる大阪府岸和田市は、宅地開発が進む山側の地域で、電動アシスト自転車や軽量電動バイクをインターネットでの簡単な登録で利用できる「スマートモビリティー」の導入を目指している。大阪南部の泉州地域は同市と同様、海岸から山まで広がる細長い地形の自治体が多く、モデルケースになるか注目が集まる。

前輪が2つある川崎重工業製の電動アシスト自転車=大阪府岸和田市

多彩な乗り物

 3月中旬、岸和田市の丘陵地に位置する近畿職業能力開発大学校で、市は「次世代モビリティー体験会」を開いた。モビリティーを手がけるメーカー5社による最先端の製品を体験できるとあって、家族連れや高齢者らが次々と訪れた。

 「これは今まで乗ったことがなかった。なかなかおもしろいね」

 川崎重工業製の電動アシスト自転車「noslisu」を軽快に漕いでみせたのは同市三田町の農業、和田洋一さん(70)。仕事で軽トラックを運転するものの「(買い物などで)駅まで行く路線バスがほとんどなく不便」なため、新しい移動手段を探しているという。

 「noslisu」は前輪が2つあるのが特徴。転倒の原因となる雨天時などの前輪の滑りを防ぐ。同社で二輪事業などを手がけるカワサキモータース事業企画部の今井雄一郎さん(41)は「バイクの設計者が技術を幅広い人に提供したいとの思いから開発した」とPRした。

体験会で、アイシン製のパーソナルモビリティーに試乗する来場者=大阪府岸和田市

 アイシンの電動パーソナルモビリティー「ILY−Ai(アイリーエーアイ)」は親子で2人乗りでき、座席位置を高めにすることで乗降の際の膝や腰への負担を軽減。大阪市の会社員、山崎亮太さん(50)は「ふだんは車や自転車を運転しているが、楽に乗れるものがあれば」と興味を示していた。

パナソニックの車いす型ロボット「PiiMo」に試乗する参加者=大阪府岸和田市

簡単に登録

 体験会は、山側の地域での交通手段の確保を目指したスマートモビリティー実証実験の一環だ。

 1月から始まった実験では、JAいずみの(岸和田市)が農産物直売所として運営する道の駅「愛彩(あいさい)ランド」(同市岸の丘町)を拠点に、近くの蜻蛉池(とんぼいけ)公園など計4カ所の「モビリティーポート」を設けて電動アシスト自転車を無料で貸し出し、別のポートでの返却を可能にした。

 愛彩ランドに農産物を出荷する農家向けに、運搬用の軽量電動バイクのモニター募集も行った。さまざまなモビリティーを取りそろえ、移動ニーズに応える狙いがある。

 自転車は延べ約300回の貸し出しがあり、バイクは約30人が応募するなど関心の高さがうかがえた。

 また、利用登録ではIT技術を活用し、貸し出し業務の省力化を推進。大日本印刷が協力し、画面にタッチして登録できる電子パネルを置いたほか、スマートフォンをQRコードにかざすだけで登録画面が表示される方式も採用した。「スマホに慣れない高齢者でも簡単に登録できる」という。

岸和田市のスマートモビリティ実証実験で使用された自転車貸し出し登録のデジタル画面(大日本印刷提供)

不安でも…

 市がこうした取り組みを始めた背景には、愛彩ランドを含む山側の地区で新しい住宅や農地、森林を整備した「ゆめみヶ丘岸和田」が27日にまちびらきのイベントを予定するなど、宅地開発が進む状況がある。

岸和田市のスマートモビリティー実証実験で、蜻蛉池公園に設置された「ポート」に並ぶ電動アシスト自転車(市提供)

 市域は市役所や南海岸和田駅などが位置する中心部の大阪湾岸から和泉山脈まで細長く伸びるが、鉄道は臨海部を横切るJR阪和線、南海本線のみ。臨海部と山間部を結ぶ路線バスとして南海ウイングバス南部が4本運行されているものの、谷筋ごとの路線で東西の移動には不便という。

 高齢者も車を使わざるを得ず、安全に不安を感じても運転免許を返納できない事情がある。高橋正悟・市街地整備課長は「市街地への移動だけでなく、バス停留所や駅までの距離をつなぐ?ラストワンマイル?の移動手段として、スマートモビリティーを活用できるようにしたい」と語る。

先行モデル

 スマートモビリティーの取り組みは、同市と同様の交通事情を抱える他の自治体でも進む。

 同じ泉州地域の大阪府熊取町は1月に約1カ月間、「AIオンデマンド」による乗り合いタクシーの実証実験を行った。町役場や病院、スーパー、住宅地の計15カ所を乗降場所に指定。移動需要の多いルートと時間を人工知能(AI)で割り出し、効率的な運行につなげる。利用者は1時間前までに電話かウェブで予約し、指定場所で乗車する。運賃は片道200円。

 町道路課の担当者は「自宅からバス停留所まで遠いという町民が?バスとタクシーの間?の感覚で利用できれば」と説明。「令和4年度も実験を継続するか検討したい」という。

 大阪府は2025(令和7)年の大阪・関西万博をにらみ、スマートモビリティーの取り組みを後押ししている。府は令和2年8月に府内の市町や企業、大学などが参加する「大阪スマートシティパートナーズフォーラム」を設立。各地で進む実証実験を軌道にのせ、大阪万博で新たな交通システムのモデル事業として打ち出す狙いがある。

 府スマートシティ戦略部の服部健太・総括主査は「岸和田市のような先行モデルを他の市町にも広げたい」と期待する。(牛島要平)

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