鉄道の保守・点検や観光案内などに人工知能(AI)を活用する動きが広がっている。JR西日本では線路や自動改札機の点検の一部をAIで自動化し、労働力を削減する取り組みを始めた。音声で切符が買える券売機や駅構内を案内するAIロボットの実証実験も行っており、従業員が働きやすく、利用者にはより便利な社会インフラになることを目指している。
JR西は令和3年11月、線路や電気設備などを点検する「検測車」にAIによる画像解析装置を設置し、試験運用を開始した。屋根や側面に備えた約50台のカメラで線路や電柱、信号機などをさまざまな角度から撮影。AIは複数の画像から検査が必要な設備を抽出し、写りが良好な画像を選ぶ。その上で設備の状態が良好かを判定する。
この装置の導入によって、これまで検査員が目視で実施していた検査を7年までに一部自動化。あらゆる機器をネットに接続する「モノのインターネット(IoT)」の活用とあわせて12年には検査業務にかかっていた労働力を1割削減することを目指す。同社は年間で約16億円のコスト減に加え、検査中の事故の減少も見込む。
また、3年度にAIによる自動改札機の故障予測システムを全支社に導入。券詰まりや読み込み失敗の発生回数データなどを基に故障確率を予測することで、定期検査の回数を約3割減らすことができたという。
JR西は、防犯カメラとAIの行動解析によって駅構内で危険な行動をとる人物や、サポートが必要な障害者を検知する仕組みの導入も進める。
3年8月の小田急線車内での刺傷事件など、電車に危険物を持ち込み「凶行」に及ぶ事件は後を絶たない。そこで同社は防犯カメラの映像から人物の骨格や体の動きをAIが解析し、事前に学習させた動作を検知するシステムを開発。ナイフを振り回すなどの危険な行動や、特定のエリアへの侵入、白杖(はくじょう)や車いすの利用者を迅速に検知することができるという。
AIの開発に携わるデジタルソリューション本部の兒玉(こだま)庸平氏は「少子高齢化に伴い、今後あらゆる業界で監視を行う人員の確保が一層困難になる」と指摘する。同社のシステムでは、カバンの置き忘れの検知や駅構内への入場人数のカウントも可能といい、兒玉氏は「これまでの安全度を損なわず、これまで以上に利用者へ安心を提供することができる」と力を込める。
今年2、3月に京都駅で、話すだけで切符が買える、AIによる自動応対機能を搭載した券売機の実証実験も行われた。
画面上に表示されるキャラクターの利用区間や日時、座席の希望などの質問に受話器を使って答えるとAIが最適な切符の購入を提案する仕組み。同社は乗車券を対面販売する「みどりの窓口」設置駅を削減する方針を示している。音声で購入できる券売機を導入することで、スムーズに省人化を進めたい考えだ。
また、大阪駅ではAI案内ロボット「歩夢(あゆみ)」の実証実験も行っている。駅構内や周辺施設の道順を音声と文字で案内する。いずれも同駅北側に5年春開業予定の新駅「うめきた地下駅」での導入が検討されており、実用化に向けて音声認識の精度向上などの改良を重ねている。
駅の安全対策にAIのような最新技術の活用が検討される一方、視覚障害者を対象とした歩行訓練などの地道な取り組みも進む。
国土交通省近畿運輸局は今月11日に奈良県天理市の近鉄天理駅で電車や駅ホームでの歩行訓練を実施し、視覚障害者ら3人が参加した。
駅のホームには、どちらが線路側か判別ができる「内方線付き点状ブロック」と呼ばれる特別な点字ブロックが設置され、視覚障害者は白杖でブロックを触ることで安全に歩くことができる。訓練は「日本歩行訓練士会」(大阪市)が協力し、参加者につえの使い方や歩き方を指導した。
国交省によると、視覚障害者の駅ホームからの転落事故は年平均75件発生。鉄道各社は転落を防止するホームドアの設置を進めているが、全駅で早期に設置することは難しく、歩行訓練のようなソフト面の対策が不可欠となっている。
一方、鉄道会社では、阪急電鉄が駅のホームの線路側の端に取り付けて電車との隙間を埋める部品「スキマモール」を大阪の合成樹脂メーカーと共同で開発した。特に隙間ができやすいホームがカーブしている駅に設置し、子供や高齢者が電車とホームの間に足が挟まれる事故を防ぐ。
阪急をはじめ多くの鉄道会社が導入を進めており、全国で200以上の駅で採用されている。
(桑島浩任)
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