「これからもデジタル・ドリーム・キッズでありたい」−。2日に亡くなったソニー(現ソニーグループ)の元会長兼グループCEO(最高経営責任者)の出井伸之さんは晩年まで、デジタル化の重要性や産業構造の転換を訴え続けていた。「デジタル・ドリーム・キッズ」とは平成7年、出井さんがソニー社長に就任した際、デジタル化路線を示すにあたって打ち出した名キャッチフレーズだ。
インターネットを通じて誰とでもつながれる世界が訪れることを見越し、その数年前からソニーのデジタル化を推進してきた。テレビやオーディオの売り切りビジネスをやめ、会社の形を大きく変えようとする路線転換には、社内外で反発があった。
ソニーグループは令和4年3月期に本業のもうけを示す営業利益で初の1兆円超えを達成した。映画などのエンターテインメントと半導体を両輪に完全復活できたのは、歴代経営者が順番に変革に取り組んできたからだ。その出発点が出井さんのかけ声にあったのは間違いない。
出井さんの経営で印象的なのは、ソニーというブランドの確立だ。常にカッコよさを求め、ソニーらしさとは何かを考えていた。かつての日本の製造業では見られなかった視点だ。
本紙の連載企画「話の肖像画」のため、昨年秋に東京・赤坂のオフィスで4回にわたって取材に応じていただいた。中国・大連で迎えた幼少期から、指揮者・小澤征爾さんとの出会い、ソニーで初となる新卒で入社した生え抜きの社長時代、最近のベンチャー支援活動までさまざまな話をうかがった。連載をまとめながら出井さんの生涯をたどり、波瀾(はらん)万丈の生き方を目の当たりにした。
出井さんは80代とは思えないほど目を輝かせ、もっと人生を謳歌(おうか)するという意欲に満ちあふれていた。新たな出会いや知識を吸収することに貪欲で、取材中も次々とオフィスにやってくる若手の起業家らと朗らかにあいさつを交わしていた。出井さんのエスプリ(精神)は確実に次の世代へと受け継がれていると感じた。(米沢文)
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