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» 2022年06月20日 08時13分 公開

人手不足で安全点検「あっぷあっぷ」 老朽化インフラに危機感 橋の4割は築50年以上に

深刻さを増している交通インフラ老朽化問題への危機感が強まっている。建設後50年以上のインフラは近く、道路橋の4割、トンネルの3割弱に達するとされ、国土交通省は点検や補修に関するルールを強化。

[SankeiBiz]
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 深刻さを増している交通インフラ老朽化問題への危機感が強まっている。建設後50年以上のインフラは近く、道路橋全体の4割、トンネルの3割弱に達するとされ、国土交通省は点検や補修に関するルールを強化。しかし現地に脚を運んで目視で点検するという従来型の手法では人手が足りず、関連業界からは悲鳴もあがる。こうした中、学術界や産業界からは人工知能(AI)などの最先端技術を活用した点検の迅速化を目指す動きも出てきた。ただ、民間が個別に取り組むだけでは社会全体として非効率な対応となる恐れもあり、産官学が一丸となった戦略的な問題解消の重要性も指摘されている。

交通インフラの老朽化が全国で進んでいる(Getty Images)※写真はイメージです

人手もなければお金もない

 「人手もなければお金もない。交通インフラの老朽化に対応せねばならない関連業界はあっぷあっぷの状態だ」。高速道路などの交通インフラの維持管理を手掛けるスバル興業の今沢宏之取締役は老朽化問題への対応の難しさを訴える。

 国土交通省によると、2023年3月には建設後50年以上経過する道路橋の数は全体の約39%、トンネルでは全体の約27%に達する見通し。第二次大戦後の高度経済成長期に集中的に整備された交通インフラの経年劣化が一気に進んでいる恐れが拡大している。

 このため国交省は2014年に全国約73万本の道路橋、約1万本のトンネルなどについて、知識と技能を有する人材が5年に1度、近接目視を基本とする全数監視を実施すると定めるなど、監視体制を強化した。しかし建設業界は慢性的な人手不足が課題となっており、「現場に赴いて、眼で見て確認するという方法では人材が足りない」(今沢氏)という現実も浮かび上がっている。

高速道路の一部が3年間通行止め

 交通インフラの老朽化に注目が集まったきっかけは、1977年に完成した中央自動車道笹子トンネル(山梨県)で2012年、約140メートルにわたって天井板などが崩落した事故だ。この事故では通行中の車3台が下敷きになり、9人が死亡し、2人が負傷した。トンネルを管理する中日本高速道路(名古屋市)などを相手取った損害賠償請求訴訟では、点検に過失があったとする横浜地裁判決が確定している。

 交通インフラの老朽化は事故に至らなかったとしても利用者に大きな影響を与える。阪神高速道路(大阪市)は今月から大阪市・喜連瓜破付近での橋梁架け替え工事に着手し、2025年3月末まで一部路線を通行止めにする。架け替え工事の理由は、供用開始から約40年が経過し、橋梁の中央部にかけて路面が垂れ下がっていることが分かったためだ。約3年にもわたって高速道路の一部を完全に通行止めにするのは異例だという。

 交通インフラの老朽化は進行すればするほど補修に時間も費用もかかる。専門家からは「日常的な点検で早めに問題を見つけることができれば、補修時に利用者に及ぶ影響を最小限に抑えることができる」との声もあがる。

AIやIoTを活用

 こうした中、産業界と学術界が連携する形で、より効率的な交通インフラの管理を実現する取り組みも動き始めた。関西大学は5月30日、法政大学、大阪経済大学、摂南大学のほか、スバル興業や建設コンサルタント業の日本インシークと連携して「インフラマネジメント研究会」を設立したと発表した。AIなどを交通インフラの安全点検に役立て、重大事故を未然に防ぐことができる体制を強化することが狙いだ。

先端技術を用いた測量のイメージ

 研究会は自動車やドローン、航空機などと3次元高精度カメラを組み合わせて、高速道路や周辺の地形を測量。構造物などの位置をX軸、Y軸、Z軸の数値で示した「点群データ」に基づく3Dマップを作成し、交通インフラの図面と比較することで異常が起きている場所を検知する点検手法の確立を目指す。研究チームの代表は土木学会副会長の楠見晴重・関大環境都市工学部教授が務める。

 異常の検知にはAIを活用する方針で、見落としを最小限に抑えるなどの効果が期待される。研究会のメンバーである田中成典・関大総合情報学部教授は「これまでの点検では、建設技術者が構造物の一部の寸法を測り、図面と照らし合わせるといった手法がとられてきた。AIや高精度カメラを使うことが当たり前になれば、少ない人員でも構造物全体をチェックできる」と話す。またボーリング調査で得られた地中の岩盤構造などのデータも用いて、地形の経年変化を検知して防災につなげる取り組みも進める考えだ。

新技術の導入段階で混乱の恐れも

 ただ、最先端技術による交通インフラの点検が実現可能になったとしても、現実社会に導入する段階では別の問題が起きる懸念もある。

 新たな点検手法を民間が個別に開発した場合には、誰が3D データを作ったかによって点検の精度が異なるなどして、安全性の評価が難しくなりかねない。また、点群データの作成や記録に関する仕様が決まっていなければ、ある企業が測量したデータを他の会社のシステムでは扱うことができないといった問題も起こり得る。

橋脚を測量した点群データに基づく3D画像(日本インシーク提供)

 民間企業がバラバラの仕様で技術を確立した後になって、業界全体として統一仕様を導入することには、時間や費用の面で困難が伴うことは確実だ。田中氏は「まだ各社が技術を磨いている段階で情報を共有していくことで余計な混乱を回避することができる」と強調。研究会が政府とも連携することで、点群データなどを用いたインフラ点検に関わる統一仕様のたたき台を提示していきたいとしている。

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