減らないポイ捨てごみ。対策を立てても、イタチごっこに陥る例も多い。ごみ拾いの際、ごみの種類や場所などの傾向をデータ化できたら有効な対策を立てられるのでは…。そんな発想から開発された機器がある。市販の装置を組み合わせ、安価でIoT(モノのインターネット)技術を実現。デジタル技術を活用し、まちの美化につなげる試みが始まっている。
今年3月、奈良県生駒市の近鉄東生駒駅前。清掃活動に集まったボランティア約40人にごみ拾い用のトングが渡された。一見普通のトングだが、先端に近いところには小型カメラ、そこからスマートフォンに接続するコードがのびている。
「Tongar(とんがーる)」と名付けられたこのトングでごみを拾うと、カメラが自動的に撮影。スマホに転送し、ペットボトル、缶、レジ袋といったごみの種類を人工知能(AI)で判別する。地図アプリと連携しており、拾った位置を地図上に表示する仕組みだ。
また、拾ったごみをトングからごみ箱に入れると「チャリン」と貯金箱にお金が入る音が鳴る。拾ったごみの数をカウントしており、清掃活動の後にはランキングが発表されるなど、遊び心をくすぐる仕掛けも取り入れた。
参加した同市在住の会社員、菅野幸作さん(42)は「カメラが付いているので若干の扱いにくさもあったが、この場所にはこんな種類のごみが多い、と分かるので啓発にもつながると思う」と話した。
とんがーるで集めたデータをもとに、ごみの多い場所に警告表示の看板を立てたり、ごみ箱の設置計画に役立てたりする。効率的に配置することで、ポイ捨てに歯止めをかける効果を期待する。
とんがーるを開発したのは、奈良先端科学技術大学院大学(同市)の情報科学領域ユビキタスコンピューティングシステム研究室。立花巧樹さん(25)がチームリーダーを務める。故郷の石川県白山市の砂浜で見た、漂着するプラスチックやペットボトルなどのごみが、生物に及ぼす悪影響が気がかりだったという。
さらに同大入学後、奈良公園(奈良市)で死んだシカの胃袋からレジ袋や菓子のパッケージなどが見つかるケースが相次いでいるというニュースを見たのをきっかけに「環境」「ごみ問題」の解決を本格的に考えるようになった。
「ごみの種類が分かれば、影響を受ける生き物を救うことができるかもしれない」。同研究室の松田裕貴助教のもとで、昨年半ばから約半年かけて完成させた。既存の機器を組み合わせる工夫で、製作費はわずか5千円で済んだ。
昨年12月から日本たばこ産業(JT)とともに生駒市や奈良市、大阪市北区などでとんがーるを使った実証実験を重ねている。自治体などのポイ捨て対策に活用してもらいたい考えだ。
今後は米グーグルの「グーグルプレイ」や米アップルの「アップストア」といったアプリ市場を通じてアプリを配布できるように改良し、カメラとスマホとの無線接続、ごみの認識精度向上などに取り組む。
「将来は地域のボランティア団体など多くの人にIoTトングを使用してもらい、ポイ捨て禁止の啓発やマナー向上につなげていきたい」と立花さん。「奈良公園でも使ってほしい」と話す。
目指すは「ポイ捨てゼロ」の世界。まちのごみも放置すれば排水路などを通じていずれ河川、海に流れてゆく。ポイ捨てゼロは、故郷の海も守ると信じている。
ごみ拾いを促すスマートフォンアプリの先駆者といえるのが、平成23年に誕生した「ピリカ」だ。アイヌ語で美しいという意味で、東京の同名の企業が開発した。ごみを拾って写真撮影すると、位置情報とともに多くの人に共有され「ありがとう」など感謝の言葉が送られてくる。
同社の小嶌不二夫代表が京都大大学院時代、世界一周の旅先で見た多くのポイ捨てごみを解決したいと考えたことが開発のきっかけだ。世界に広がり始めていた交流サイト(SNS)の活用を思いついた。ごみ拾いというちょっとした「善行」は「いいね」の共感も得やすく、励みになる。
国内では26年の福井県を皮切りに自治体での導入が拡大し、現在は15の自治体が活用している。人口減少などで清掃活動の参加人数が伸び悩んでいる地域で、若者を呼び込むのに一役買っているという。
現在、110カ国以上で計約200万人が利用。これまで拾われたポイ捨てごみは約2億3千万個に上るという。(木村郁子)
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