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» 2022年07月04日 08時20分 公開

あの「どこでもドア」が現実に メタバースの可能性

インターネット上の仮想空間「メタバース」をビジネスに活用するケースが増えている。

[産経新聞]
産経新聞

 インターネット上の仮想空間「メタバース」をビジネスに活用するケースが増えている。これまで、主にゲームやエンターテインメントの世界で親しまれてきたメタバースだが、新型コロナウイルス禍で難しかった移動や対面の課題を解決する策として、ビジネスシーンでの利便性が注目された。メタバース元年とも呼ばれる2022(令和4)年。多くの企業がビジネス利用を検討しているという調査結果もあり、関心の高まりは今後も続きそうだ。

昭和レトロを忠実に再現

 「キャバレー ユニバース」「原価奉仕の味園」

 パソコンやスマートフォンを使って特設サイト「UNIVERSE 1956」にアクセスすると、派手なネオンを掲げた昭和レトロな建物が目に飛び込んでくる。昭和31年にキャバレーやダンスホール、宴会場などを併設した歓楽施設として大阪・千日前に開業し、今も貸しイベントスペースなどが入居して形を残す「味園(みその)ユニバースビル」の約60年前の姿だ。

 キーボードなどを操作して建物内にも入ることができる。階段を上れば、無数の電球で彩られた天井、シックな色調の客席、そしてライトで照らされた舞台が目の前に広がる。全盛期の高度経済成長期には約1500人のホステスを擁し、1日千人の客でにぎわう日本最大のキャバレーとして名をはせた往時のきらびやかさが再現された。

 プロジェクションマッピングやAR(拡張現実)の演出を行う企業「コズミック・ラブ」(大阪市中央区)が観光庁の「来訪意欲を増進させるためのオンライン技術活用事業」に採択され、約2千万円の助成を受けて手掛けた。200枚以上の写真と当時を知る人への聞き取りをもとに作り上げたという。

 「新型コロナ禍でイベントが満足にできない中で、若者から年配の方まで興味を持って互いに刺激を受けあう空間を作りたかった」と三浦泰理(やすみち)代表は話す。令和3年12月に公開すると10〜70代までの幅広い世代が利用し、同月に開催したライブイベントには延べ1万5千以上のアクセスがあった。三浦氏は「交流のきっかけになって地域の活性化や文化の発展につながれば」と新しいエンタメやビジネスチャンスのきっかけにしたい考えだ。

現実の需要にも引き込む

 メタバースのビジネス活用を推進もしくは検討している企業は約4割−。PwCコンサルティング(東京)が4年3月に1085社を対象に行った調査による数字だ。そのうち半数が「1年以内の実現」を目標にしていることも分かった。同社は、「メタバースはゲーム、エンターテインメントのための仮想空間からビジネス活用の段階に移ってきている」とみる。

 ANAホールディングス(HD)も、メタバースを利用して、旅行事業への参入の準備を進めている。第1弾では京都市の八坂神社や二条城、京都国際マンガミュージアムなどを再現する。利用者はスマホの専用アプリで自らを撮影すると自動生成されるキャラクターで仮想の京都を散策でき、観光や買い物を楽しめる。早ければ4年度中にサービスが始まる。

 新型コロナ禍で航空業界や旅行業界は大きな影響を受けた。非接触でも旅を楽しめるメタバース上で顧客との接点を増やすのが狙いで、現実の旅行需要にも引き込みたい考えだ。

110兆円市場まで成長

 企業が参入しやすいメタバースとして、仮想オフィスにも注目が集まる。

 バーチャルな空間に自分の座席や会議室、歓談スペースなどを配置して、リアルな職場と同じように同僚と仕事のやりとりや雑談をすることができる仮想オフィス。PwCコンサルティングの丸山智浩シニアディレクターも「(メタバース上のイベントなど)大がかりなものは予算の見通しが立てづらいこともあり、仮想オフィスなどの身近な取り組みから活用が進んでいく可能性はある」と話す。

 矢野経済研究所によると、元年度に4千万円だった国内の仮想オフィス市場は、コロナ禍の2年度に6倍以上の2億5千万円と急成長。7年度には180億円にまで拡大すると予測している。新型コロナ禍でテレワークが推進されたことに伴い、需要が高まったことも、企業の参入を促し、市場が拡大した。

 石川県七尾市のoViceが提供する「オヴィス」は人気の仮想オフィスだ。2年8月のサービス開始から2年足らずでトヨタ自動車やパナソニックHDなどの大企業を含む2千社以上が導入し、日々6万人以上がオヴィスに“出社”。導入企業の中からは「リモートワークで減ったコミュニケーションが再び円滑になった」という声も上がる。oViceで広報を担当する市川伸氏は「仮想オフィスはバリアフリー。障害がある方だけでなく、子育て世代などにも働きやすい環境を提供できる」と強調する。

 米調査会社エマージェンリサーチの分析によると、世界のメタバース市場全体の規模は、2028(令和10)年には8289.5億ドル(約111兆円)にまで拡大すると予想されている。PwCコンサルティングの丸山氏は仕事や娯楽をすべてメタバースに移行するのではなく、「現実と仮想のハイブリッドをいかにうまく進めるかが企業がメタバースを活用する上でのカギとなる」と話している。(桑島浩任)

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