トイレで洗った手を乾かす「ハンドドライヤー」の需要回復を目指し、企業が新製品の開発や安全性のPRに取り組んでいる。新型コロナウイルスの感染防止策として使用を停止する施設が相次いだが、今年5月8日に新型コロナの感染症法上の位置づけが「5類」に移行したことで、使用を再開する事例も増え始めた。ただ、感染への不安は根強く、各社がイメージ回復に力を入れている。
「水滴が飛び散りにくいので、より安心して使っていただける」
TOTOの担当者が熱心に売り込むのは、同社が1月に発売したハンドドライヤー。一般的なハンドドライヤーは風を吹き出して水滴をはじき飛ばすが、同社の新製品は吹き出した風を吸引する仕組みを搭載することで、水滴の飛散を約9割抑制した。さらに空気清浄機で使われているフィルターを搭載することで、より清潔な風で手を乾かせるという。
感染への懸念から「使用を取りやめています」などの掲示があちこちのハンドドライヤーに貼られたのは約3年前。令和2年春、政府の専門家会議がハンドドライヤーによる感染リスクを指摘し、経団連は加盟企業向けのガイドラインに「利用停止」を盛り込んだ。
ほとんどのビルや商業施設でハンドドライヤーの利用が停止となる中で各メーカーは打撃を受けた。専業メーカーの東京エレクトロン(東京都多摩市)の井上聖一社長は「ハンドドライヤーの売り上げは大幅に減少して壊滅的な状態になった」と振り返る。
パナソニックホールディングスの担当者も「売り上げは急落した。海外では利用が継続されていたので日本特有の現象」と話す。同社の製品は本体に抗菌素材を使い、水受けの部分の継ぎ目を最小限にすることで汚れなどがたまりにくいようになっており、「感染のリスクが高いとは考えていない」(担当者)という。
国内シェアトップの三菱電機は2年9〜10月、北海道大の林基哉特任教授監修の下、エアロゾル(ウイルスなどを含み浮遊する微粒子)への安全性の検証を実施。20人に1人が感染者という想定で、トイレでハンドドライヤーを使用した場合の感染確率は一般的な状況で0.01%。オフィスに7時間滞在した場合の6.8%と比べ低い結果となった。
同様の複数の検証結果をもとに経団連は3年4月にガイドラインを改定し、ハンドドライヤーの利用再開を認めたが、すぐには需要は回復しなかった。風向きが変わったのは新型コロナの5類移行から。各メーカーの担当者は「5月以降、少しずつだが需要は回復してきている」と話す。
ただ、東京エレクトロンの井上社長は「新規注文が回復するには1年以上かかるのではないか」とみる。ハンドドライヤーの耐用年数は一般的に7年程度とされており、利用停止期間の分、買い替えのサイクルが遅れる可能性があるという。井上社長は「安心して使ってもらえる製品を出すことで、利用の促進につなげたい」としている。(桑島浩任)
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