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» 2023年06月29日 09時40分 公開

半世紀近い反目に終止符 ヤマト・郵便の協業に「ペリカン便」のトラウマ

日本郵政の増田寛也社長は27日の定例会見で、子会社の日本郵便が、ヤマトホールディングス(HD)子会社のヤマト運輸と配送サービスで協業を決めたことについて、深刻な人手不足が懸念される「2024(令和6)年問題」などを踏まえ「時代環境の変化を受け止めて組むところは組む。競うところは競う」と強調した。

[産経新聞]
産経新聞

 日本郵政の増田寛也社長は27日の定例会見で、子会社の日本郵便が、ヤマトホールディングス(HD)子会社のヤマト運輸と配送サービスで協業を決めたことについて、深刻な人手不足が懸念される「2024(令和6)年問題」などを踏まえ「時代環境の変化を受け止めて組むところは組む。競うところは競う」と強調した。

記者会見する日本郵政の増田寛也社長=27日、東京都千代田区

 協業するのは、ヤマト運輸が提供するカタログなどの配送サービス「クロネコDM便」と薄型荷物をポストに届ける「ネコポス」の2つのサービス。ヤマト運輸が引き受けた荷物を日本郵便の郵便局に送り、日本郵便が配達する。

 ヤマトの2サービスの合計売上高は直近年度で約1300億円で、郵政にとってはどれだけ自社の収益につなげられるかが課題だ。ただ、増田氏は協業後の2サービスの利用料金が未定なことなどから収益面での具体的なメリットについては言及しなかった。


 日本郵便とヤマト運輸の配送サービスの事業提携は、古くからの両社の確執を知る業界関係者にとっては「歴史的和解」と受け止められた。ヤマト運輸は郵便が約40年前の国の事業だったころから、旧郵政省(現総務省)と規制緩和に向けて激しく争ってきたからだ。

 「敵対関係ともいえる競争をしていた時代があった」。日本郵政の増田寛也社長は27日の定例会見で両社の関係をこう振り返り、2024年問題や二酸化炭素(CO2)削減といった時代環境の変化に合わせた協業の意義を強調した。

 19日に事業提携を発表後、ヤマトの鹿妻明弘専務執行役員は「過去はともかくそういう時代ではなくなってきたのかな」と苦笑しながら語った。日本郵便の美並義人副社長も同様に「そういう時代だ」と変化を口にした。

 両社が協業することを決めたサービスのうち、カタログなどを届け先のポストに配送するヤマトの「クロネコDM便」は、郵便への対抗の象徴だった。ヤマトは昭和51年に小型荷物の宅配サービス「宅急便」を開始したが、宅急便の荷物に同封されている挨拶(あいさつ)文などが当時の郵便法で輸送を禁止されていた「信書」に該当するとして国が59年にヤマトを警告。しかし、信書の概念があいまいなことから、ヤマトと郵便の間で信書論争が展開されてきた。

 その間、ヤマトは平成9年に信書以外のA4サイズの薄型荷物をポストに届ける「メール便」を開始したが、利用者が手紙などの信書を同封して郵便法違反に問われるケースが相次いだことからメール便を終了。27年には法人向けに限定する形で「クロネコDM便」を開始していた。来年2月からは両社の共同サービス「クロネコゆうメール(仮称)」として再スタートする。長尾裕社長は「メール便以降、投函(とうかん)事業を拡大してき たが、当社の主力は2トントラックの配送ネットワーク。投函領域は最も得意な(郵便の)ネットワークにお願いするのが自然だ」と強調した。

だが協業開始に向けては懸念の声も聞かれる。ヤマトと郵便配送の現場では顧客の奪い合いも激しく「あそこまで仲たがいしていたのをうまく修復できるのかという懸念は強い」(業界関係者)。

 さらに、日本郵便が日本通運の宅配事業「ペリカン便」を吸収した22年に起きた遅配などの大混乱が、ヤマトとの協業開始時にも起きるのではと「ペリカン便のトラウマ」を語る郵便関係者も少なくない。

 ただ、日本郵便は令和3年に発表した佐川急便との宅配の協業については、浜松市から東京都までの間で共同運送を始めるなど順調だ。電子商取引(EC)の利用の増加が続く一方で配送の担い手不足の深刻化が増す中、輸送コストのかかる小口宅配については「半世紀近い反目」(業界関係者)に終止符を打つ必要があると判断した郵便とヤマト。経営陣には協業開始までの間、現場レベルで根強く残る確執への対応も求められる。(大坪玲央)

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