スタッフを配置せず、物品販売やサービス提供を行う無人店舗が各地で広がっている。人手不足に加え、キャッシュレスサービスの進展やコロナ禍で広まった「非接触」ニーズが後押している。一方で、無人に伴う盗難も頻発しており、対策としてセキュリティー市場も拡大してきた。
「少子高齢化で楽器を売買する人は減っていく。無策でいては、いずれつぶれてしまう」。岡山市に本店を置く管楽器販売の「服部管楽器」の服部悟社長(41)はこんな危機感を抱く。今年6月、関連会社を通じて、東京都大田区と大阪府東大阪市の計2カ所に、スタッフ不在の24時間営業の音楽練習スタジオ「dixstudiо24」をオープンした。
コロナ禍では、岡山市の本店近くの別の楽器店が所有していた音楽練習スタジオの継続を断念。その事業を引き継いだ。当時、服部管楽器では約70人いた管楽器教室の生徒がゼロとなっていた。新たな収益源を探す中で、接客するスタッフが必要なく、感染リスクを下げることができるスタジオの無人化を決断、昨年3月にオープンした。セキュリティー関連設備などで初期費用はかかったが、同年7月には収益分岐点を超え、軌道に乗りだした。
スタジオの予約はスマートフォンやパソコンで行い、与えられたキー番号をスタジオ入り口で入力して入室する。決済はクレジットカードやキャッシュレスサービスで事前に行う。屋内には防犯カメラを設置し、楽器などの盗難に備えた。服部さんは「音楽家たちのホームにしていきたい」と意気込む。
同様の無人店舗はコロナ禍を背景に各地で広がり、冷凍食品販売からフィットネスクラブなど、品物やサービスの種類も多様化してきた。一方で、万引きや深夜に現金が奪われるなどの事件も各地で頻発している。
岐阜、愛知、三重の3県では、今年3月ごろから、閉店中のコインランドリーや無人精肉販売所など約100カ所に設置された精算機から、現金が盗まれる被害が相次いだ。被害額は1千万円超とみられる。今年5月には、深夜に大阪市内のアイスクリームの無人販売所の精算機をこじ開け現金9千円を盗んだとして、40歳代の男が大阪府警に窃盗容疑で逮捕された。今年2〜5月に府内の無人店舗で同様の被害が約20件確認されたという。
一般社団法人 全国防犯住宅推進機構(東京都)では、対策として「防犯カメラの映像をライブで店内に流し、監視していると強調すること。また、店内にスピーカーなどで直接声かけができる仕組みを取ることが有効だ」とアドバイスする。
こうした情勢を背景に、防犯カメラなどセキュリティー関連機器の国内市場も拡大傾向にある。調査会社の富士経済の調べでは、令和8年の国内市場は、3年比12.3%増の1兆1125億円となる見込み。無人店舗が牽引材料のひとつだ。このうちスマートフォンなどの機器を用いて開閉・管理を行う「スマートロック」の国内市場は同2.9倍の223億円に伸びると予測している。
セキュリティー業者自ら参入するケースも出てきた。防犯カメラ・入退室管理システムのセキュア(東京都)は今月3日、監視カメラと人工知能(AI)を連動させた無人の実験店舗「セキュアAIストアラボ2.0」を「新宿住友ビル」(東京都)にオープンした。通常の無人店舗で商品棚に設置される重量センサーが必要なく、防犯カメラだけで購入者と品物を特定でき、初期投資を抑えられるのが特徴という。
広報担当者は「無人店舗のオーナーから防犯の相談を受けるうちに自分たちで店舗を運営し、課題解決の知見を深めようと考えた」といい、実験を経て既存小売店に店舗システムの売り込みを進めるという。(織田淳嗣)
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