新型コロナウイルスが感染症法上の5類感染症に移行され、使用される機会が少なくなった飛沫防止用のアクリル板を回収し、熱化学技術を用いてアクリル樹脂として再生するプロジェクトが始まっている。住友化学(東京都)と愛媛県新居浜市が共同で実施。全国の自治体や事業所などで保管場所や処理方法が課題となっているアクリル板を新たな資源ととらえ、地域内で循環させるモデルケースの一つとして注目されている。
プロジェクトでは、新居浜市は市内の事業者に不要になったアクリル板の提供を呼びかけて収集。民間回収業者の協力も得る。住友化学は集まったアクリル板を市場価格で引き取り、同市内の愛媛工場へ。粉砕して昨年12月に完成した高さ約38メートルのケミカルリサイクル実証設備へ投入し、アクリル原料(メタクリル酸メチル)を作る。同社の技術はプラスチックを分子レベルまで分解することができ、アクリル樹脂の純度が高いのが特徴。石油を原料とした通常製品と同じ品質になるという。
市によると、収集対象になるのは市内で使用されていたアクリル板で、破損したり、汚れがひどいものは対象にならない。受け入れ場所は同観音原町にある市清掃センターで、ごみ処理手数料は不要。第1回受け入れを8月1〜15日に行い、以降は12月と来年3月を予定している。
7月6日に住友化学と市が共同の記者会見を開いてプロジェクトについて発表した。石川勝行市長は「アクリル板は保管場所や処分経費、方法が課題になっている。事業者の支援、後押しになる取り組み。第9波の懸念があるので、年度末まで時間をかけて引き取ることになった」と話した。市役所では現在約160枚(約800キロ)のアクリル板を保管している。市内には事業所や飲食店などで約10トンのアクリル板があると見込んでいる。
同社の佐々木義純常務執行役員は「プラスチックの循環社会を構築することは社会的な課題となっている。市民にリサイクルを身近に感じてもらい、プラスチックを廃棄しない社会が当たり前になるよう貢献したい」と述べた。同社のケミカルリサイクル技術によるスクラップ原料の製品は、石油から製造されるより二酸化炭素排出量を60%以上削減できると試算しており、実証設備で検証を進めている。
同社愛媛工場の村田弘一工場長は「最初のハードルは分別と回収。市が後押ししてくれ、プラスチック廃棄物の削減に寄与し、二酸化炭素も少なくできる。自治体、回収業者、消費者との連携が不可欠で、資源回収の文化を一緒に醸成したい」と話した。
ケミカルリサイクル実証設備は年間約300トンのアクリル原料を精製する能力がある。同社の取引先からアクリル削りかすを引き取り、原料とするなどすでに稼働している。同社は実証設備で条件を最適化する技術を確立したうえで、将来は世界を市場に事業化を図りたい考えという。
新居浜市と共同のプロジェクトは「MICAN(みかん)プロジェクト」と愛称を付けた。MICANは「みんなで・いっしょに・サーキュラー・アクション・にいはま」の意味。再生したアクリル樹脂を原料にキーホルダーを作り、市内の小学校などに配布して、子供への啓発に活用するとしている。
石川市長は「市は歴史的に住友化学とともに環境問題に取り組んできた。相互に協力して一体として進めたい。プラスチック資源の観点から、今回のプロジェクトは企業の先進的技術でごみの減量につなげるモデルケースになる」と語った。(村上栄一)
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