ベンジャミン・フランクリンの「時は金なり(タイムイズマネー)」を引くまでもなく、人生は時間の使い方で決まる。現代では「タイパ(タイムパフォーマンス)」の価値観から効率的な時間活用が求められ、隙間10分で書籍の要約がインターネットで読める「flier(フライヤー)」の利用が広がっている。累計会員107万人、導入するカフェや図書館などの施設は累計945カ所に及び、新幹線のぞみ車両でも閲読できる。
新刊ビジネス書を中心に哲学、歴史など「今読むべき本」3200冊超の要約を提供するフライヤー。
月間ランキング1位「頭のいい人が話す前に考えていること」(ダイヤモンド社)の要約を見た。《あなたの頭のよさを決めるのは他者だ。「頭のいい人」と認められれば、話を聞いてもらいやすくなる》《コミュニケーションがうまい人は、自分の承認欲求を抑制し、他者の承認欲求を満たすことに注力している》……。あくまで要約だが、フムフムとうなずいていた。
「要約原稿はすべて出版社や著者から許諾を得たもので、論旨を忠実にまとめている。第三者の主観や感想が入る書評との大きな違いです」。フライヤーの大賀康史社長(44)が強調した。ランキングは日ごと集計され、ジブリ新作映画に関連する昭和12年の名著「君たちはどう生きるか」(岩波書店)も、14日の映画公開を機に上位に躍り出ている。要約は約4千文字。AI音声の読み上げ機能で“ながら聴き”もできる。料金は読み放題が月額2200円などで、お試し的な無料プランもある。
しかし、要約が出回ると肝心の本が売れなくなるのでは? 実際は逆のようで、要約を読了した2割近くが書籍の通販サイトにアクセスしているという。出版社側に費用負担はなく、効率的なPR媒体としても機能しているようだ。
サービス立ち上げから今年で10年。新型コロナウイルス禍のステイホームで成長し、法人需要はコロナ前の5倍に伸びた。累計810社と契約している。
「“密”になる社員研修が開けなくなった企業から、自律的な能力開発やリスキリングの学習ツールとして着目され、福利厚生目的でも活用が広がった」と大賀社長。一方、各施設の無料Wi−Fi(公衆無線)を活用した図書館やネットカフェ、公共交通機関などへの導入も進む。
JR東京駅。東海道・山陽新幹線のぞみに乗り、ネット予約ができるEXサービス会員専用サイト「EX 旅のコンテンツポータル」を開くと、書影が並ぶフライヤーにつながった。
同路線の約6割がビジネス利用客で、ニーズに合わせた10冊が独自に選書されている。「東京から大阪までの2時間半、仕事をしているか寝ているかという方が多い。選択肢を増やしたかった」と、JR東海事業推進本部の新規事業担当、鶴長伸之係長(30)。車内販売子会社への出向経験があり、「飲食はじめ、移動時間を楽しんでいただくことの大切さに気付いた」という。のぞみ7号車をビジネス向け車両としてWi−Fi環境を増強するなど出張サポートに力を入れる。今や新幹線の一番の競合相手は飛行機や高速バスではなく、コロナ禍で普及したリモート会議。「リアルな交流を支えたい」
要約サービスを導入したコロナ禍の令和3年10月当時は、輸送人員が平時の半数に減っていたが、現在はコロナ前(平成30年、1日約47万人)の9割に回復。
その他鉄道では、小田急電鉄ロマンスカー(8月31日まで)、近畿日本鉄道「ひのとり」「しまかぜ」でも選書要約が読める。
じっくり見るべき映画ですら、倍速視聴で消費されるタイパ全盛のご時世。過剰な情報とそれに付随する欲望で、1日24時間の中にあれもこれもと詰め込みがちだ。しかし一見、無為に思える“ぼーっとする時間”も時に必要と感じる。いや、ぼーっとする時間の創出のために、タイパを求めているのだろうか。(重松明子)
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