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» 2023年08月07日 08時44分 公開

無謀と言われても挑戦……パワー半導体の礎築いた京大・松波名誉教授に「エジソンメダル」

日本人のエジソンメダル受賞はノーベル物理学賞を受賞した赤崎勇氏らに続き4人目。

[産経新聞]
産経新聞

 電力消費を大幅に削減する「パワー半導体」の基盤に使われる炭化ケイ素(SiC)の実用化に貢献したとして、電気電子工学分野の世界的学会「IEEE(アイトリプルイー)」から今年5月に「エジソンメダル」が贈られた京都大の松波弘之名誉教授(84)=京都府八幡市=が八幡市役所で記者会見を行い、喜びを語った。日本人のエジソンメダル受賞はノーベル物理学賞を受賞した赤崎勇氏らに続き4人目。

エジソンメダルを披露する松波さん=京都府八幡市

 昭和14年、大阪市生まれ。37年に京都大工学部卒業後、米ノースカロライナ州立大客員准教授や京大工学部教授などを歴任した。

 松波さんと炭化ケイ素の出会いは43年。当時の炭化ケイ素の用途は研磨剤や耐火材が中心だったが、研究室にあった書籍に半導体への応用の可能性が記載されていた。誰も炭化ケイ素への関心がなかった中、松波さんは「人と違うことをやりたい」と研究への挑戦を始めた。

 当時は無謀な研究と思われた。基盤に必要なシリコンと炭化ケイ素の原子間の間隔に大きな差があった。このためきれいな基盤を作ることができず暗礁に乗り上げた。周囲からは「できっこない」と厳しい声も寄せられた。それでも「研究に明け暮れた日のことを苦労だったとは思っていない」(松波さん)。地道な研究を続けた。

 幸運が舞い降りたのは61年だった。研究室の学生が、炭化ケイ素の基盤を表面と並行に研磨するところを誤って傾けて研磨してしまった。これがきっかけとなり、高品質な結晶の製造に成功。その後、炭化ケイ素製デバイスの製造にも成功しパワー半導体の礎を築いた。

 電力の制御や変換を行うパワー半導体は、高い電圧、大きな電流に対しても壊れにくいといった特徴があり、脱炭素の促進にも期待されている。ローム(右京区)をはじめとした国内企業だけでなく、米国やドイツなどの企業でも製造コストの抑制を目的に積極的な投資が行われている注目のデバイスだ。

 松波さんはエジソンメダル受賞の快挙について「世界的学会に評価していただいたのは大変光栄なこと」。その上で「炭化ケイ素の半導体が安価になれば家庭の白物家電にも使われる。持続可能な社会のために寄与できたらうれしい」と話した。(鈴木文也)

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