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» 2023年08月08日 08時13分 公開

副都心支える巨大地下施設 東京・新宿地域冷暖房センター

明治時代から都心を支えた水源、淀橋浄水場が再開発で姿を変え、行政や経済の中心地として首都・東京を牽引する。その地下では世界最大級のとあるシステムが24時間365日休むことなく働いている。

[産経新聞]
産経新聞

 かつてホテルとして世界一の高さを誇った京王プラザホテル(昭和46年開業)や、1400万人の都民生活を支える東京都庁(平成3年開庁)などさまざまな超高層ビルが林立する新宿副都心。明治時代から都心を支えた水源、淀橋浄水場が再開発で姿を変え、行政や経済の中心地として首都・東京を牽引する。その地下では世界最大級のとあるシステムが24時間365日休むことなく働いている。

蒸気や冷水、電気を送る配管が通る地下トンネル=新宿区

鳴り響く轟音

 厳重なセキュリティーを抜け、エレベーターで地下に向かう。ドアが開くと、会話もままならないほどの轟音が鳴り響く空間が待っていた。間近から大声で話してやっと意思疎通が可能だ。いたるところに「耳栓着用」の立て看板がある。

 ここは東京ガスエンジニアリングソリューションズが運営する「新宿地域冷暖房センター」。昭和46年4月、地域冷暖房システムとして全国で2番目に運転を始めた。当初は地上施設だったが、都庁移転に伴い、平成2年に地下化され、現在は近隣の22棟、延べ床面積227万平方メートルに冷水と蒸気、そして電気を供給している。

 目玉は世界最大級の能力を持つ冷凍機だ。都市ガスを燃料にしたボイラーで発生させた高温・高圧の蒸気を動力に稼働するものなど11基があり、一般の家庭用クーラー約9万1千台程度の能力を持つ。また、航空機のジェットエンジンを転用したガスタービン発電機や、最新鋭の都市ガスコージェネレーション(熱電併給)システムも導入される。こうしたさまざまな機器が最深部で地下28メートルにもなる地下施設内に配置され、冷房需要がピークを迎える夏にかけ、フル稼働する。

蒸気で稼働させる世界最大級の蒸気タービン・ターボ冷凍機=東京都新宿区(中村雅和撮影)

吹き出す汗

 センターの本間立所長からは事前に「暑いから、ネクタイなどは外していったほうがよいですよ」と“警告”されていた。取材した7月24日、都内の最高気温は35.7度と猛暑日だった。ぎらつく日差しは届いていない地下だが、体感では地上と変わらないほどの暑さだった。額や腕からは玉のように汗が吹き出す。それでも本間氏は「今日はまだまだですねぇ…」と涼しい顔だ。センターでは4人1組のチームの交代制で24時間態勢で運転状況を監視する。この他にもメンテナンス要員らが詰める。

 冷凍機は摂氏4度の冷水を作り出すが、すべての経路で万全に断熱処理された配管を通じて供給先に送られる。ただ、機器からは当然、熱が生じ、施設内は40度を超えることも多いという。センター員は薄い灰色の作業服を着ているが、汗で濃く変色することも珍しくないという。

 実は施設内には風呂もあるという。「お湯はありますからね。ただ『大浴場』ではないですよ」と話す本間氏。入りたい……と喉まで出かかった言葉を、断腸の思いで飲み込んだ。

都心の「室外機」

 蒸気や冷水は、副都心に張り巡らされた総延長8キロもの導管で運ばれる。供給を受ける各ビルは、大規模な機械室などを用意することなく、冷暖房や温水を使用できる。大規模な施設に一括させることで、個別にボイラーなどを用意するよりも高効率で、かつ排ガスの発生を抑制できる。また、燃料となる都市ガスの配管も含め、災害への対応力は高い。平成23年の東日本大震災でも、供給を途絶えさせることはなかった。

冷却水用のファンが高速で回転する屋上からは、東京都庁も見える=東京都新宿区(中村雅和撮影)

 中期的にはビル側の需要とセンター側の供給能力をICT(情報通信技術)でリアルタイムに連携させ、省エネルギー性をより深掘りする構想が進む。さらに、長期的には再生可能エネルギーの導入拡大や、水素と二酸化炭素から都市ガスの主成分、メタンを合成する「メタネーション」などにより、地域全体の脱炭素化を図ることも目指す。

 取材の最後では地上約40メートルの施設最上部を訪れた。高速で回転するファンの働きで冷却された水が、施設の機器を冷やす。

 「副都心中の『室外機』がここにあるようなものですよ」と話す本間氏の説明を受けながら見上げた先には、都庁第二本庁舎をはじめ、高層ビル群が広がっていた。(中村雅和)


地域冷暖房 一定の地域内にあるビルなどに、一括して冷水や温水、蒸気などを供給し、効率的な冷暖房、給湯を実現するシステム。日本では、昭和45年、日本万国博覧会(大阪万博)で初めて導入された。当初は大気汚染対策が主眼だったが、近年は脱炭素社会実現に向けた方策の1つとして注目を集めている。

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