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» 2023年08月23日 08時31分 公開

調理ロボットが飲食店を救う 人に代わって厨房で作業、人手不足の解決策に

人手不足が深刻な飲食業界で、スタートアップが開発した調理ロボットが存在感を放っている。

[産経新聞]
産経新聞

 人手不足が深刻な飲食業界で、スタートアップ(新興企業)が開発した調理ロボットが存在感を放っている。ロボットが調理作業を丸ごと担うため厨房(ちゅうぼう)スタッフの省人化が可能で、飲食チェーンで導入が進む。パスタを最短45秒で調理するロボットのほか、そば、炒め物など料理の種類も広がってきた。スタートアップの技術が、飲食業界が抱える経営課題の解決策になろうとしている。

フライパンを取り付けたアームロボットが麺ゆで機に移動し、ゆで上がったパスタを受け取る=東京都千代田区のエビノスパゲッティ丸ビル店(寺河内美奈撮影)

 調理ロボットのフロントランナーといえるのが平成30年に設立されたテックマジック(東京都江東区)だ。社員約70人のうち7割以上が技術者で、パスタを自動調理する「P−Robo(ピーロボ)」を開発。カフェチェーンなどを運営するプロントコーポレーションが昨年6月、丸の内ビルディング(東京都千代田区)で開店したパスタ専門の「エビノスパゲッティ丸ビル店」に初めて導入したことで脚光を浴びた。

IH調理器にセットしたフライパンで、パスタ、具材、ソースを高速で攪拌しながら仕上げる(寺河内美奈撮影)

 ピーロボは幅4.8メートル、奥行き0.84メートル、高さ2メートルの大きさ。麺ゆで機や加熱するIH調理器、攪拌(かくはん)するフライパンなどを備えた作業台の上をアームロボットが自在に動き調理する。

 注文を受けるとパスタを麺ゆで機に投入。ゆでている間に冷蔵庫から具材とソースを取り出しフライパンに入れると、アームロボットが麺ゆで機の方に移動し、ゆで上がったパスタを受け取る。最後はフライパンでパスタ、具材、ソースを高速で撹拌しながら加熱して仕上げる。複数のフライパンを同時に動かすことができ、人工知能(AI)による画像認識技術で問題なく調理ができているかをチェック。調理後はフライパンの洗浄まで行う。

「P―Robo」が調理した後、スタッフが盛り付け、トッピングして仕上げる(寺河内美奈撮影)

 調理時間は最短45秒で、1時間当たり最大90食の調理が可能という。スタッフはできあがったパスタを皿に盛り付け、仕上げのトッピングをするだけだ。1食につき2分もかからず提供できる。プロントではベテランでも調理に3分程度を要するという。9種類のパスタを提供しているが、来店客の反応も「ロボットが作っているとは思えない」と好評だ。プロントではこれまでに3店舗に導入したが、厨房スタッフ1、2人を省人化でき、早期に50店舗に増やす計画だ。

 ピーロボはレシピに基づいて稼働ソフトをつくり、ロボットでも再現できるように調理器具の形状やアームロボットの動作を最適化した。部分的な検証を繰り返し、装置全体の試作も2回行い完成させた。

できあがったジェノベーゼ=東京都千代田区のエビノスパゲッティ丸ビル店(寺河内美奈撮影)

 大手食品メーカーも注目しており、日清食品ホールディングスやキユーピーなどが資本参加する。テックマジックを率いる白木裕士社長はボストンコンサルティンググループから独立した。当初は1人暮らしの高齢者などを念頭に家庭用の調理ロボットの開発を検討したが、家庭用はコスト面などでハードルが高いと判断。人材確保に悩む飲食店にターゲットを切り替え、起業した。

 テックマジックは、ピーロボで得た知見を生かし、6月にはチャーハンや野菜炒めなどを調理するロボットを開発。近く中華料理チェーンの大阪王将が試験導入することが決まっている。白木社長は「飲食チェーンで普及させ、コンビニやスーパーなどより家庭に近いところに進出していきたい。海外展開も考えている」と先を見据える。

 調理ロボはテックマジック以外のスタートアップも参入。JR東日本グループが出資するコネクテッドロボティクス(東京都小金井市)は「そばロボット」を開発、駅そば店への導入が進む。調理ロボの活躍の場は着実に広がりつつある。

 調査会社の富士経済によると、調理ロボットの国内市場規模は令和4年で2億円。普及初期の段階だが、現行の業務用厨房機器の市場規模は約6千億円とされ、中長期的には将来性が高い。調査を担当した山下海氏は「人手不足はもちろん『バイトテロ』対策としても役立つはずだ。メリットが十分に理解されれば、普及が加速する可能性もある」と話している。

(佐藤克史)

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