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» 2023年09月05日 08時33分 公開

万博海外パビリオンを「3Dプリンター」で 複数国から相談、兵庫のメーカーに

2025年大阪・関西万博の海外パビリオン建設準備が遅れている問題で、3次元プリンターによる建築に熱い視線が注がれている。

[産経新聞]
産経新聞

 2025年大阪・関西万博の海外パビリオン建設準備が遅れている問題で、3次元(3D)プリンターによる建築に熱い視線が注がれている。日本初の3Dプリンター製商用建物を24時間以内に完成させたことで知られる住宅メーカー、セレンディクス(兵庫県西宮市)の飯田國大(はんだ・くにひろ)・最高執行責任者(COO)は大阪市で行った講演で、複数の国から3Dプリンターでのパビリオン建築を打診されたことを公表。「オールジャパンで3Dプリンターを活用し、課題を解決したい」と幅広い協力を求めた。

3Dプリンターで出力される住宅「フジツボモデル」の躯体=5月29日、愛知県小牧市(セレンディクス提供)

 大阪・関西万博を巡っては、資材価格の高騰などを背景に、参加国・地域が独自に設計・建設を手掛けるパビリオン「タイプA」建設の準備が難航。来年度から建設業で残業規制が強化される「2024年問題」で人手不足に拍車がかかることも予想され、各国と建設事業者との契約が進まない事態に陥っている。

 3Dプリンター製住宅の量産を目指すセレンディクスは、高さ約4メートルの球体住宅「スフィア」を24時間以内で建設。今年7月には延べ床面積50平方メートルの平屋住宅「serendix50(フジツボモデル)」の試作品を約44時間で完成させた。11月には70平方メートルの平屋住宅「serendix70」を建設予定だ。

セレンディクスが建設予定の70平方メートルの平屋住宅「serendix70」のイメージ図(Clouds AO / serendix)

 同社の3Dプリンター製建物に注目が集まるのは、建設コストの安さとスピードだ。国内外200超の企業とコンソーシアムを組み、オープンイノベーション方式で開発を進める同社は「車を買う値段で買える最先端の家」を目指して徹底したスピードアップとコストカットを図る。「スフィア」の販売価格は330万円、「50」は550万円。「50」は7月末時点で購入希望が1041件に上るなど、予想を上回る人気となっている。

 3Dプリンター製住宅の先進地は欧州だが、従来工法の延長線上で施工されており、工期は半年間、コストも従来工法並みから3割減程度と「お得感」は低い。セレンディクスは後発ながら、海外からの問い合わせも相次いでいるという。

 飯田COOは8月30日、大阪市で開かれた不動産・建築の業界関係者対象の総合展示会「JAPAN BUILD」のセミナーで講演。日本を含む世界5カ国で同一データを同時出力する「水平分業」を実現して3Dプリンター製建物を建設していることを説明。大阪・関西万博の海外パビリオン建設遅れが問題となる中、複数の国関係者から「3Dプリンターでパビリオンを造ってほしい」と相談があったことを明かした。

 万博の運営主体である日本国際博覧会協会(万博協会)は建設準備が遅れる参加国に対し、協会が箱型のパビリオンを建てて引き渡す「タイプX」への変更を提示しているが、独自性を出す自由度が低い。これに対し、3Dプリンターによる建築は人手がかからず、デザインの自由度が高い建物を安く短時間で建てられる。

 ただ、同社は平成30年設立のスタートアップ企業で設計・開発の「デジタル」に特化。出力3Dプリンターは海外メーカーとの協業、施工は住宅施工会社との協業で行っている。飯田COOはパビリオン建設について「残念ながら、弊社単独ではできない」と説明。「オールジャパンで3Dプリンターを使ってこの課題を解決できれば。周りの方々にもぜひ話してほしい」と述べ、万博成功に向けた幅広い協力を呼びかけた。(木村さやか)

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