デジタル技術でビジネスを変革する「DX」が定着したと思ったら、最近は「GX」という言葉をしばしば聞く。
GXとは「グリーントランスフォーメーション」。政府の「GX実現に向けた基本方針」によると、化石エネルギー中心の産業・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換すること。脱炭素と経済成長の両立を目指すという。環境問題への取り組みはCSR(企業の社会的責任)という印象がある。脱炭素は本当に経済成長につながるのか。
IT分野に注がれてきた世界のお金が、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)関連に向かい始めている。こう指摘するのは、『クライメートテック』(宮脇良二著、日本経済新聞出版・2640円)だ。クライメートテックとは、気候変動対策を目指すスタートアップ(新興企業)群の総称で、代表する企業は米電気自動車大手のテスラ。気候変動の影響を緩和する技術は、電力分野の二酸化炭素(CO2)を出さない燃料をはじめ、輸送や食料など幅広い分野にあるという。
こうした事業への投資がブームとなった背景として、(1)発電にいくらかかるかを発電設備の建設から廃棄までの全コストから算出すると、欧米では2010年代に火力発電より再生可能エネルギーの方が安くなった(2)世界の科学者たちによって気候変動の危機が科学的根拠を持って提示され、具体的な目標値が設定された−などを挙げる。
『グリーン・ジャイアント』(森川潤著、文春新書・1012円)も、脱炭素は巨額のマネーが動く領域になったとする。再エネ大手の米ネクステラ・エナジーが2020年、企業の時価総額で国際石油資本の米エクソンモービルを一時的に抜いた。本書はネクステラやイタリアのエネル、スペインのイベルドローラといった再エネ企業を「グリーン・ジャイアント(再エネの巨人)」と呼び、こうした逆転劇があらゆる領域で起きるとみる。
刊行は2年前だが、当時は各国による脱炭素宣言ラッシュが起き、日本も20年、「2050年カーボンニュートラルの実現」を国際公約として表明。著者は、20年代の始まりが後に歴史の転換点と認識される可能性を示唆している。
米国では、牛が排出する温室効果ガスのメタンを減らすため、植物肉が菜食主義でない若者にも消費されているそうだ。
脱炭素に向けて企業や人々の行動とお金の流れを変える仕組みとして期待されているのが、CO2に価格を付けて排出企業に負担を求める「カーボンプライシング」だ。主な手法に、排出したCO2に課税する炭素税や、排出量上限を超過する企業と下回る企業との排出量取引がある。『入門 環境経済学 新版』(有村俊秀・日引聡著、中公新書・990円)によると、各国で炭素税や排出量取引が急速に広がりつつある。
導入すれば排出の少ない設備の需要が伸び、企業の研究開発投資も期待できるが、規制のない国に産業が移転すると危惧する声がある。本書はこうした論点を解説した上で、国際競争力を持つ日本の企業や技術が生まれるとの見方を示す。
日本でも今年5月、GX推進法が成立。10年間で20兆円規模のGX経済移行債を発行することで民間投資の呼び水とし、カーボンプライシングも導入する。巨額のお金が動くのは確かなようだ。(寺田理恵)
copyright (c) Sankei Digital All rights reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上