化学肥料でも農薬でもない、農作物の収穫量を増やす新たな農業用製剤「バイオスティミュラント」が注目を集めている。自然由来の材料を使うなどして環境負荷が低く減農薬が期待できるため欧州を中心に広がっており、世界市場は2027年に62億ドル(約9300億円)規模に拡大する見通しだ。日本でも大手企業が開発・製品化を進めており、持続可能な農業を実現する手段の一つとして期待されている。
バイオスティミュラントは日本語に直訳すると「生物刺激剤」。刺激を与えて農作物が持つ本来の力を引き出し生育を促進したり、病気に強くしたりする働きがあるバイオ製剤を指す。収穫量を増やしつつ、土壌汚染の発生要因となる化学肥料や農薬の使用を減らすことができるとされる。
パナソニックホールディングスは、空気中の二酸化炭素(CO2)を原料とする農作物の成長剤「ノビテク」を開発した。植物と同じように光合成をする「シアノバクテリア」の表面を崩壊させ、光合成による生成物(代謝物)を取り出す技術を確立。この代謝物を含む溶液を葉に散布すると刺激となり、成長が促進されるという。
同社が全国の農地で実施した実証実験ではトマトやホウレンソウの収穫量が4割以上増加したほか、トウモロコシやナスで良品率が向上した。一方で、効果が確認できない作物もあった。
同社テクノロジー本部の児島征司主幹研究員は「シアノバクテリアに空気を与えればいいので原料のコストがほぼかからない」と強調する。24年度から販売を開始し、海外展開も視野に入れる。
味の素はうま味調味料のメーカーとして培った技術を応用し、約15年前からバイオスティミュラント製品を展開。うま味調味料の生産過程でできる発酵液を主成分とする「アミハート」は、発根を促進する効果がある核酸を豊富に含み、日照不足や高温による作物へのストレスを予防する効果がある。担当者は「バイオスティミュラントは作物を気候変動に強くする対策としても有効で、新製品を導入し事業拡大を目指す」と話す。
市場調査リポートを販売する「グローバルインフォメーション」によると、世界のバイオスティミュラントの市場規模は22年の35億ドルから27年には約1.8倍の62億ドルに成長すると予測されている。持続可能な農業への需要の高まりから、成長が続く見込みという。
一方、日本国内ではバイオスティミュラントの定義や認証基準がなく、効果の低い製品も販売されていることが普及の足かせになっている。バイオスティミュラントを開発する「AGRI SMILE(アグリ スマイル)」(東京)は今年9月、ルール作りを目指し「脱炭素地域づくり協議会」を設立。各地の農業協同組合やキユーピーなどが参画している。「アグリ スマイル」の長縄晃典(ながなわあきのり)経営企画部長は「効果があいまいだと農家に使ってもらえない。明確な基準を作るため国に働きかけたい」とする。
近畿大農学部の佐古香織講師は「バイオスティミュラントは農薬や肥料の法律に該当せず、農家の不利益にならないような配慮が求められる」と指摘。その上で、「近年の異常気象に作物を対抗させるため市場は拡大していくだろう」と述べた。(桑島浩任)
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