“大政奉還”のサントリー、創業家への回帰は既定路線 新浪社長の10年間で「布石」打つ

連結売上高3兆円超の企業規模では異例の非上場経営を貫く同社にとって、創業家への“大政奉還”ともいえる人事だ。

» 2024年12月13日 12時30分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 サントリーホールディングス(HD)次期社長に、創業家出身の鳥井信宏副社長が就任する人事が12日、発表された。連結売上高3兆円超の企業規模では異例の非上場経営を貫く同社にとって、創業家への“大政奉還”ともいえる人事だ。これは現社長の新浪剛史氏も明言していた既定路線で、これまでの10年間は、創業家出身の人材の育成期間だった意味合いが強い。今年1月には鳥井氏に続く創業家出身の社長候補とみられる役員登用も決めている。佐治信忠会長も残る現体制で、創業家回帰の流れを盤石化する“布石”人事とみる向きもあるようだ。

佐治会長の「弟」が役員就任

 1月のサントリーHDの役員人事で、創業家の一員である佐治清三氏が執行役員に就任した。現在43歳という若さでの異例の抜擢となるが、その経歴はやや複雑だ。

 清三氏は佐治会長の腹違いの妹の長男で、父親は世界的チェリストの堤剛氏。2010年にサントリーに入社している。ウイスキーのブレンドの配合を決めるブレンダー室や品質向上を図るMBC開発研究所などを歴任しており、「モノづくり畑の人というイメージが強い」(サントリー関係者)。

 清三氏は入社時は堤姓だったが、15年に祖父にあたる2代目社長の佐治敬三氏の妻(清三氏の祖母)の養子となり、佐治姓を継いだ。信忠会長の甥だった清三氏は、この養子縁組で弟となったという。「信忠会長に実子がおらず、社内に佐治の名前を残す狙いがあったのでは」(同)との憶測も広がっている。

異例の2人会長体制の狙い

 サントリーは、鳥井信治郎氏が1899年に開業した鳥井商店が前身だ。ウイスキーやワイン、ビールなどの酒類分野を中核に成長を続ける中、同社の社長は創業家の鳥井・佐治両家が“たすき掛け”で担ってきた。

 その人事に変化があったのは2014年。5代目にして初めて創業家以外から新浪氏が社長に登用された。ただ、新浪氏は社長就任にあたって、現会長の信忠氏から「(鳥井)信宏を次の社長に育ててもらいたい」と依頼されていたという。同年7月の会見で、信忠氏は「最低10年間は新浪さんに(社長として)頑張ってもらいたい」と述べていたが、ちょうど10年で交代が発表された。今回までの一連の人事は信忠氏の狙い通りに進められた印象が強い。

 「良い商品を作るこだわりを続けるには、創業家ならではの価値観がないとできない。モノづくりにおける創業家の大切さをすごく感じている」。新浪氏は12日の会見でこう述べ、創業家の長期的な視点が経営に重要だと強調した。今回の人事では、新浪氏の会長就任とともに信忠氏の会長留任も決まった。この異例の2人会長体制には、創業家の足場固めに向けて目を光らせる信忠氏の意図も垣間見える。(西村利也)

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