人工知能(AI)やデジタルトランスフォーメーション(DX)を手がける国内のIT人材が決定的に不足する中、企業が海外にいる人材へシステム開発などを任せる「オフショア開発」が広がっている。
人工知能(AI)やデジタルトランスフォーメーション(DX)を手がける国内のIT人材が決定的に不足する中、企業が海外にいる人材へシステム開発などを任せる「オフショア開発」が広がっている。委託先として多いのはベトナム、インドといったアジアの国々で、人件費の低さなども理由に上がる。ただ、その人件費も欧米との人材争奪戦で上がる可能性があるほか、中小企業には導入のハードルが高い。並行して国内人材を育て、不足を解消する努力が必要となる。
ホームセンター大手カインズ(埼玉県本庄市)の東京都港区内の拠点。システム開発の責任者、磯道善和さんが、約10人のインド人スタッフらとオンラインで会議を開いていた。
「主なテーマはオフショア開発の課題についての意識の共有など」(磯道さん)。画面の向こうにいるのは、インドでカインズの社内システムの開発などに携わる人たちだ。会議は毎週開き、課題の洗い出しなどをおこなっている。
カインズは2021年、インド南部チェンナイにある、同国IT最大手タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)の施設内にオフショア開発の拠点を設けた。今は西部プネとあわせインドに2拠点ある。カインズのITエンジニアは24年時点で合計310人おり、日本とインドの人材の比率は5対5となっている。
「インドの人材は勤勉で仕事が早い」。磯道さんはこう語る。インドはITに強い人材が多いともされ、会議に加わったインド人男性は「海外で働くチャンスを得るには、ITを学ぶのが一番と考える人が多いからではないか」と話した。
磯道さんは「大切なのは、カインズでの働きがいを意識してもらうことだ」と考えており、スタッフらが互いの国を行き来し、交流と理解を深めることに心を砕いている。
インドでのオフショア開発は広がっており、同国の9カ所で日本企業に拠点を提供しシステム構築などを支援しているTCSの顧客は大手中心に数十社に上るという。
インド人プログラマーらの日本への採用を進めている、大阪市が本店のIT派遣大手キャル(東京都千代田区)も「将来、インドにオフショア開発の拠点を置くことを視野に置いている」(海外企画事業部の野上健次顧問)。
野上さんは、とくに南インドの人材について「エンジニアや理系の職業を目指す人が多く、競争する中で技術が磨かれている」とする。
一方、インドを上回って日本企業がオフショア開発の拠点としているのがベトナムだ。人材派遣のパーソルエクセルHRパートナーズ(大阪市)は昨年11月、首都ハノイに現地法人を設け、日本の大手メーカーなどから請け負って、ソフトのオフショア開発を始めた。関係者によると、ベトナム人は「親日家が多く真面目だ」という。
現時点では現地採用のベトナム人エンジニアと日本人指導員らを合わせ10人が働いている。今年度中に現地採用だけで15人とし、28年までに倍増させることを目指す。
パーソルエクセルHRパートナーズがオフショア開発を進めるのは、電機、自動車、半導体などの日本のメーカーで電子機器のソフト開発需要が高まっているにもかかわらず、国内では人材が足りないためだ。経済産業省の試算では、日本のIT人材不足は30年に最大約79万人に上る。
りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は「人材不足を解決しなければ日本の競争力が衰える」と警告。オフショア開発は、補う手段として一定の役割を果たすとする。
ただ、オフショア開発の拠点となる国でも、欧米企業との間で人材の奪い合いが激しくなる可能性がある。「今は低めの賃金を高くしなければならず、日本で雇うよりコストがかかるようになるかもしれない」(荒木さん)。また、手間などを考えると「中小企業はオフショア開発に乗り出しづらい」とする。
これを踏まえると、日本国内でIT人材を確実に育てる体制づくりがあわせて必要だと荒木さん。「大学に専門学部をつくったりリスキリング(学び直し)の環境を整えたりすることに政府は本腰を入れるべきだ」としている。(山口暢彦)
経済産業省は2030年に最大で約79万人のIT人材不足が起こりうると試算。人工知能(AI)やビッグデータを使いこなす新しいビジネスの担い手育成が不可欠としている。
不足を補うためオフショア開発を望む日本企業は多い。委託先探しを支援しているテクノデジタル(東京)によると、オフショア開発は「コスト削減」という観点で活用されてきたが、近年は「(人材などの)リソース確保」に大きくシフトしたとみられる。
同社の「オフショア開発白書(2024年版)」によると、日本企業が委託している国で最も多いのはベトナムで42%。次いで中国26%、インド7%、ミャンマー4%−だった。
ベトナムの人気は近年変わらず、「親日」「勤勉な国民性」「安価な人件費」などが理由。加えて、国家としてIT人材の育成に最近ますます力を入れていることも追い風とする。
中国は市場が大きくエンジニアが多いが、人件費高騰のほか、規制をめぐる不透明性などがあり、近年ベトナムなどへ拠点を移す企業も増えているという。
一方、海外人材の人件費などの平均コストについては、プログラマーの場合、ベトナムが1人当たり月39万4千円、中国が44万4千円、インドが53万3千円、ミャンマーが26万9千円だったとした。
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