経済効果は23兆円の「九州半導体クラスター」 台湾が貿易投資センターを開所した思惑

台湾企業の日本進出を支援する「台湾貿易投資センター」が4月、福岡市博多区に開所した。

» 2025年05月07日 11時16分 公開
[産経新聞]
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 台湾企業の日本進出を支援する「台湾貿易投資センター」が4月、福岡市博多区に開所した。台湾の貿易投資センターが設置されるのはチェコの首都プラハに続き世界で2カ所目。昨年12月には熊本県菊陽町にある半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)熊本工場が本格稼働するなど、九州では半導体関連を中心に台湾企業の集積が進む。九州と台湾は友好関係を築いてきた歴史と縁を持ち、関係者は日台の経済安全保障推進の土台となることに期待している。

台湾と日本の行政、経済関係者が参加して開かれた台湾貿易投資センターの開所式=4月21日、福岡市博多区(一居真由子撮影)

相互投資を促進

 4月21日、同センターの開所式が行われた福岡市のホテルには、台湾の行政関係者や日本の国会議員、九州の経済団体トップら約250人が顔をそろえた。

 あいさつに立った台湾の経済部(経済産業省に相当)の江文若政務次長(副大臣)は「日台間の経済貿易におけるパートナーシップが、新たな段階に進むことを象徴する」と意義を強調。福岡県の服部誠太郎知事は「九州の産業経済はダイナミックに躍動している。台湾企業の進出を心より期待したい」と述べた。

 同センターは、九州で半導体ビジネスが拡大していることを踏まえ、台湾貿易センター福岡事務所の機能を拡充し、福岡商工会議所内(同市博多区)にオープン。日本に進出する台湾企業と日本の関係機関の橋渡しをする役割を担い、相互投資や技術交流も促進する。

台湾貿易投資センターが入る福岡商工会議所=福岡市博多区(一居真由子撮影)

九州に進出相次ぐ

 TSMC熊本工場の稼働により、九州では台湾企業の集積が急速に進んでいる。北九州市では半導体の検査や組み立て作業を担う「後工程」の世界大手、日月光投資控股(ASE)の日本法人が進出を計画し、福岡県久留米市などには、半導体ウエハーの搬送容器などを製造する家登精密工業が工場建設を予定している。半導体関連だけでなく、福岡市中心部の再開発ビルには、台湾系金融機関の開設も相次ぐ。

 九州経済調査協会が昨年12月に公表した推計値によると、半導体関連の設備投資やそれに伴う生産活動により、令和3〜12年に九州・沖縄・山口地域にもたらされる経済波及効果は23兆300億円に上る。台湾貿易センターの黄志芳会長は「九州はまもなく、新しい世界の半導体クラスターとなる」と言い切る。

歴史的にも関係

 九州は地理的に台湾に近いだけでなく、歴史的に友好関係を築いてきた深い縁がある。

 福岡市出身で1918(大正7)年に第7代台湾総督に就任した明石元二郎(1864〜1919)は、日本統治下の台湾で電力や鉄道などインフラ整備の道を開いた。遺言で台湾に埋葬されることを望んだ人物でもあり、台湾には墓や記念碑が建立されている。命日には日台の関係者が参列して慰霊式が営まれるなど今も明石を慕う関係者は多い。

 日本統治下の台湾に本社を置いた製菓会社「新高製菓」は、佐賀県出身の森平太郎(1869〜1946)が創業。キャラメルやドロップが現地で大ヒットし、戦前の日本の主要菓子メーカーとなった。江戸時代、長崎から福岡・小倉に至る北部九州に「シュガーロード(砂糖の道)」が形成され、街道沿いに多くの菓子店ができたのは台湾を含め海外からもたらされた砂糖に起因する。

 佐賀県の山口祥義知事は「九州と台湾は交易を通じてお互いを盛り上げてきた。これからも甘くて深い関係が繰り広げられることを期待する」と語る。

日本は友達以上

 一方、中国が台湾に対する軍事的な圧力を強める中、経済安全保障面で日台の連携が進むことを重要視する声もある。

 台北駐福岡経済文化弁事処長(総領事)の陳銘俊氏は台湾貿易投資センターの開所式で、「日本は友達以上の関係で(いざというときに)背中を任せることができる。経済だけでなく安全保障面でも信頼できる」と日本の役割に期待を寄せた。

 経済産業相を務めた自民党の甘利明元幹事長も「サプライチェーン(供給網)は法の支配や自由、民主主義など基本的な考え方を共有することが必要だ」と指摘。対中国を念頭に置いた日台協力の重要性を訴えた。(一居真由子)

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