開催中の2025年大阪・関西万博で世界最大の木造建築「大屋根リング」に注目が集まる中、木材建築回帰の動きが高まっている。
開催中の2025年大阪・関西万博で世界最大の木造建築「大屋根リング」に注目が集まる中、木材建築回帰の動きが高まっている。耐震や断熱性に優れた建材パネルの技術開発が進み、高層ビルにも応用。国は林業活性化につながるとして国産木材の利活用を後押しするが、林業の担い手不足や建設コスト面での課題が顕在化しており、対策が急がれる。
東京都中央区で建設が進む地上12階建てのオフィスビル。清水建設(東京)が手掛け、壁や梁(はり)はカラマツなどの国産木材と鉄骨を組み合わせており、木のぬくもりを感じられる一方で、耐火や耐震性を高めた。
2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」の実現に向けた取り組みが官民で進む中、都心部で木造ビルの建設が相次ぐ。清水建設のビルも、完成までの過程でCO2(二酸化炭素)排出量を2割削減できる。
さらに木造ビルは、森林保護の側面からも期待される。林野庁などによると、日本は森林面積が国土の約3分の2を占める世界有数の「森林大国」。4割は戦後の人工林で、そのうち6割がCO2の吸収力がピークを過ぎており、木材として本格的な利用時期を迎えた樹齢50年超の古木だ。国は古木を建材活用し、若木を植樹することで荒廃を防ぎ、森林の循環と地球温暖化防止の効果を期待する。
昭和39年の外国産材の輸入自由化などで国産材の利用は長らく低迷してきた。人口減による将来的な住宅需要減も見込まれた平成22年、公共施設での木材利用を促す法律が施行。令和3年には対象が民間建築物にも広がった。
法整備に伴い木造建築を導入する事業者への補助金も導入され、木材の利用は拡大。国産材自給率は令和5年には43%と、過去最低だった平成14年の18.8%から大幅に改善した。
林野庁担当者は「自給率は世界情勢に左右されるが、令和12年に4200万立方メートルまで国産材の供給を拡大する目標を掲げ、利用促進を図る」と話す。
ただ、林業を取り巻く現状は厳しい。昭和55年に14万6千人いた林業従事者は、高齢化もあり令和2年には4万4千人と減少の一途をたどる。
さらに、急峻(きゅうしゅん)な地形で育つ国産材は、外国産材と比べて割高だ。日本木造住宅産業協会が同年度、住宅メーカーなどに国産材を使用しない理由などを尋ねた調査(有効回答68社)でも、「外国産材より高価」が64.7%と最多。「必要なときに量が確保できない」が41.2%だった。
国は安定した林業経営に向け、平成31年に所有者に代わり、荒れた森林を自治体が管理できる森林経営管理法を施行したほか、林業従事者の待遇改善などに取り組む。同庁担当者は「デジタルや機械化で補いつつ、持続可能な森林経営を目指す」と話した。
木造高層ビルでは「CLT(直交集成板)」と呼ばれる建材パネルが利用される。1990年代に海外で研究開発が進められ、「燃えやすく揺れに弱い」という木の弱点を克服し、コンクリートに匹敵する強度を実現した。大阪・関西万博の大屋根リングや日本政府の「日本館」にも、その技術が採用されている。
CLTはスギなどの木の板をそれぞれの繊維が直角に交わるようにはり合わせるのが特徴だ。平行に合わせる従来品よりも強度が高く、同じ強度のコンクリートと比べて重さは5分の1以下と軽く、輸送しやすい。
住友林業がCLTなどで建てた10階建てビルの耐震実験では、平成7年の阪神大震災レベルの強い揺れでも倒壊せず、高い安全性が確認された。
国内では建築基準法の改正で、木造高層ビルの建築に道が開かれた。内閣官房などによると、CLTを活用した建物は全国で千件に上る。
一方で、建設には従来よりも建築コストがかさむ上、設計にも高い技術力が求められる。国はこうした課題に対応するため、モデル建築の提示やCLT製造メーカーと施工業者などの連携強化を進める。
日本は有数の「森林大国」だが、「林業大国」ではない。住宅ニーズなどの減少で木材が売れず、安価な外国産材との価格競争のため販売価格を下げざるを得ず、現在では50年育てた木が1本1千円に満たない価格で取引される。林業は赤字商売というのが従事者の共通認識だ。
打開するためには、地域の木は地域で使う地産地消で輸送コストの低減を図ったり、国産材を持続可能なバイオマス資源として利用するなど新たに市場を作り出したり、柔軟な方法を検討するべきではないか。木造高層ビルもそうした手段の一つだ。
国は古木を伐採し、若木に植え替えることで森林の循環を図るが、同じ場所に植えることで土壌が劣化して、思うような生育が見込めない恐れもある。また、林業に詳しい自治体職員は少ない。林業従事者が先細りする中、コストはかかるが、専門家の育成も必要だ。
日本は自然環境に恵まれているが故に、森林をはじめ自然に思いをはせることが少ない。持続可能な林業のあり方を一人一人が考えるべきだ。
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明治学院大学 経済学部准教授