東南アジアでも特に成長著しいベトナムの大都市郊外で、日本企業がマンション分譲からまちづくりまで手掛ける都市開発が相次いでいる。
東南アジアでも特に成長著しいベトナムの大都市郊外で、日本企業がマンション分譲から街づくりまで手掛ける都市開発が相次いでいる。日本国内は少子高齢化で住宅市場が縮小傾向にあるため、各社は日本で培った不動産開発のノウハウを輸出。トランプ関税などの政治的リスクもはねのける現地のエネルギーを借りて事業拡大を目指す。
「ベトナムは人口や所得が伸びており、長期的に成長するという安心感がある」
ベトナムで都市開発事業を手掛ける阪急阪神不動産(大阪市)の松田富行海外事業本部長は、そう確信を込めて語る。
阪急不動産(2018年4月から阪急阪神不動産)は15年に南部ホーチミン郊外で、西日本鉄道、現地のデベロッパーの3社でマンション分譲事業を始動。阪急不動産初の海外プロジェクトだった。
それ以降、同国内の主に中間所得層を対象に、6プロジェクトで計約1万4千戸の住宅を分譲。21年9月にはホーチミン郊外ドンナイ省の約170ヘクタールの大規模都市開発で戸建て住宅の分譲を開始した。
阪急阪神不動産は現地の中堅デベロッパーの担当者を大阪に招き、JR大阪駅北側の再開発エリア「グラングリーン大阪」などの物件で部屋の空間設計などを視察してもらったこともある。「われわれのノウハウとベトナム人の生活様式を組み合わせて、最適な住宅を提供したい」と松田氏は話す。
一方、ホーチミン中心部から北に約30キロ。ビンズオン省で東急が開発する区域には高層マンションが何棟も並ぶ。高所得者向けのマンションは1室1500万〜6千万円。部屋の家電製品などには日本メーカーの製品が使われており、担当者は「日本ブランドは信頼性が高く、ベトナム人に好まれる」と話す。商業施設なども建設し、路線バスを運行して日本の鉄道沿線開発で培った知見を生かしている。
三菱商事も20年からホーチミンで都市開発に参画し、マンションなどの不動産開発を進める。「ベトナムの中間所得層の増加を受け、投資を決めた」と担当者は話す。
北部の首都ハノイでは、住友商事が日本の技術を活用した先進的なスマートシティの開発を進める。最新テクノロジーを使った健康管理など、住民の新たな暮らしをデザインする計画。梁井崇史執行役員は「日本の技術や機能性を備えた日本品質の暮らしを輸出する」と意気込む。
教育では日本のさまざまな習い事などのアフタースクールのプログラム、医療では病院と連携した健康管理などのサービス提供を検討する。25年からインフラの着工を始めて26年に街びらきを行い、10年以上かけて総合的な街づくりを行う計画だ。
各社が続々とベトナムに進出する背景には、日本の高度成長期を思わせる躍進ぶりがある。ニッセイ基礎研究所によると、ベトナムの24年の実質国内総生産(GDP)の成長率は前年比7.1%で、東南アジア主要国でトップ。高い人口増加率と勤勉な国民性が成長を支える。特にホーチミンの人口過密による住宅不足は年々悪化し、近郊の都市のベッドタウン化が進んでいる。
さらにホーチミンでは昨年12月、日本の円借款により、ベトナム初の地下鉄となる都市鉄道が開通した。阪急阪神不動産の松田氏は「ベトナムといえばオートバイが多く走っているイメージだが、街の姿も変わりつつある」と開発の進展に期待を寄せる。
ベトナムは米中との経済関係が緊密で、中国の経済減速や米トランプ政権の関税政策の影響が懸念される。ただ、松田氏によると「現地の人々は変動が当たり前という考え方で落ち着いている」という。
各社の進出に伴って競争も激化している。日本貿易振興機構(ジェトロ)の森則和ビジネス展開課長は「日本企業は国内の需要が減っているので海外に出ていかざるを得ない。新興国のインフラは新たな主戦場になるだろう」と指摘する。(桑島浩任、牛島要平)
ベトナム人は住居へのあこがれが強い。賃金が上昇していく中で、中間所得層が住宅に関心を持ったときにベトナムの国内企業だけでは供給力が心もとない。
1990年代から日本企業がベトナムに進出する中で、日本風の家のつくりや家具などが現地に浸透したという経緯がある。日本の品質や使い勝手も含めて、日本式の暮らしが受け入れられやすい土壌がベトナムにはあるといえる。
街づくりのような長期間にわたる開発の場合、万が一何か起きたときにちゃんとアフターフォローしてくれるという信頼が日本にプラスに働いている側面もある。
ベトナムの住宅不足は所得が低い層ほど顕著だ。日本企業の都市開発は所得が高い層が主なターゲットかもしれないが、中間の中でも少し下の層でも手が届く住宅を供給できれば、さらに大きな日本への信頼につながるだろう。
一方で海外での都市開発は、政変や法律の変化などのリスクが伴う。いかに正確な情報を入手するか。そのための関係づくりができるかが重要になる。(聞き手 桑島浩任)
copyright (c) Sankei Digital All rights reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授