徹底した「仮説検証」――セブン-イレブンの情報システムの今
徹底的な仮説検証に基づいた、きめ細かい単品管理で、高収益を生み出してきたセブン-イレブン。昨年、立地特性に応じたデータ分析も可能にした第6次総合情報システムへ移行。さらに緻密な分析を可能にしたITが効率的な売り場を支えている。
全国1万1000店を超えるコンビニエンスストアチェーンを抱えるセブン-イレブン・ジャパンは、徹底的な仮説検証に基づいた、きめ細かい単品管理で、高収益を生み出してきたことは有名だ。昨年2006年には、店舗の立地特性に応じたデータ分析も可能にした第6次総合情報システムへの移行を完了。さらに緻密(ちみつ)な分析を可能にしたITが効率的な売り場を支えている。
「小売業は、変化対応業」――インテル、オラクル、日本ヒューレット・パッカードが主催した「Technology Forum 2007」で講演したセブン&アイ・ホールディングス執行役員システム企画部CVSシステムシニアオフィサーの佐藤政行氏は、こう言い切る。
消費や供給サイドでの競争の激化は、消費者との接点となる小売の姿を変える強烈なプレッシャーとなり、仮説検証の強化だけでなく、チームマーチャンダイジングや、パートナーと連携したビジネスのスピードアップを図ってきた。
同社は、店舗や配送センターだけでなく、取引先やメーカーにも「SNET」と呼ばれる集配信システムや問い合わせシステムに接続できる「世界でもあまり例のない」システムを構築しているが、それも情報を徹底的に活用してサプライチェーンの効率化するためだ。
「商品は売り切らなければロスになる。オリジナル商品では情報を共有し、在庫の横持ちを行うなどして何としてでも売り切る。オリジナル商品の売れ残り率は0.2%で、ナショナルブランドは0.9%だから、いかに情報共有が効率化につながるかが分かる」
ハードとネットワークの進化が変えたセブン-イレブンの店舗
第6次総合情報システムでは、これまで使用してきた3系統の異なるネットワークをIP-VPN回線に統合した。これが、セブン&アイグループの統合ネットワーク基盤にもなる。
これまでのネットワークは、(1)POS(販売時点情報管理)や在庫問い合わせなどのISDN回線と、(2)店舗内のマルチメディアデータ配信の衛星回線、(3)セブン銀銀行ATMなどで使うIP専用回線、とバラバラだった。「衛星回線は天候が乱れると、到達しないこともある」など、回線によって配信を工夫する必要があった。これを1MpbsのIP-VPN回線とバックアップのISDN回線で「すべてを統合した」わけだ。
これにより、店舗の情報化が格段に進化した。
競争力の源泉である単品管理では、POS情報を参照し、天気などの周辺情報とリンクさせて、仮説を立て→商品を発注→検証する、というサイクルを繰り返す。店舗のクライアント側で必要な情報を落としてきてリンクさせ、仮説や検証を行うにはそれなりの知識が求められた。それが、ネットワーク越しサーバ側で行えるようになったことで、プロセスや関連情報の参照が簡単になり「誰にでも単品管理ができるようになった」。
「ハードウェアとネットワークのスペックが上がったことで、これまでクライアントにダウンロードしなければできない分析が可能となった」と、佐藤氏は言う。
さらに、新型POSレジスターを配備し、店舗の従業員の教育コストを引き下げた。ビジュアルなインタフェースとタッチパネルで、操作者の業務の流れにあった画面設計を取り入れた。店舗の無線LAN化で、本部からの商品陳列方法などの情報をGOT(グラフィックオペレーションターミナル)で確認することもできる。
「アルバイトなど店舗の26万人のスタッフは1年で皆入れ替わっている。これまでPOSレジの教育に1人8-10時間かかったが、10-20分程度なった。これだけで40数億円の経済効果があった」と佐藤氏。
また、タイプA、B、CのICカードに対応するリーダーライターを搭載したことで、セブン&アイグループの「nanaco」を初めとした国内の電子マネーだけでなく、海外での展開も容易にしているという。
第6次情報システムでは、店舗周辺の世帯数や、学校や病院などの近隣の施設データも分析に活用できる。1992年からの第4次総合情報システムでは、地区単位での集計値分析しかできなかったが、1998年の第5次で個店単位のデータ分析、そして、第6次で立地特性に応じたデータ分析が可能になった。第4次のデータベース容量は150Gバイトに過ぎなかったが、今では15Tバイトにまで膨らんでいるという。
「個店立地に合わせた対応は、今後の勝負の分かれ目になってくる」と、佐藤氏は言う。
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