無償奉仕「ボランタリーWebユーザー」登場 社会はどう変わる? 企業の取るべき対応は?:トレンドフォーカス(2/2 ページ)
インターネットでは、日々多くの人々が新たな情報を提供している。そのおかげで、インターネットは使いやすいものになった。しかし、人はなぜWeb上で無償の奉仕をするのか。
経済価値は3400億円にも上る
「ブロードバンドが普及した今日、消費者自らWebに情報をアップロードしていく行動が急速に増えている。10億人のネット利用者が日々人類の叡智を構築している」と語るのは、野村総合研究所(NRI)の情報・通信コンサルティング部で主任コンサルタントを務める小林慎和氏だ。同氏はそのような人々のことを、「ボランタリーWebユーザー」と名づける。
小林氏は仮説として、ボランタリーWebユーザーを「Creator」、「Editor」、「Valuer」の3タイプに分類し、これら要素を総合して持っている人を頭文字からCEVと称している。
Creatorとは、さまざまなコンテンツを無償で創造し、Webにアップロードする特性を持った、アルファブロガーやWikipedia に寄稿するような人々。Editorは、Web上の無秩序な情報を無償で関連付けする特性を持つ、Q&Aサイトで回答する人やタグを付加する人のこと。そしてValuerは、Web上のさまざまな情報の価値を無償で判定する特性を持ち、カスタマーレビューやクチコミサイトに投稿する人のこという。
NRIでは、日本のボランタリーWebユーザー数は2239万人と推定し、その中でCEVは234万人とはじき出した。その中でも毎日活動するヘビーCEVは63万人もいると推計している。
ボランタリーWebユーザーがWebに費やす時間を見ると、ヘビーCEVは1日のうち3時間54分間をWeb利用しており、このうち半分をWebの知的価値向上に資する活動に充てているという。仮に、これを東京都の最低時給(739円)で換算すると、年間の経済価値は3400億円相当になるというわけだ。
ボランタリーユーザーを企業はどう支援するか?
では、なぜその人々は無償の活動に従事するのか。デール・カーネギーは自身の著書『人を動かす』の中で、人に重要だと感じさせる、聞き手にまわる、相手の関心を見抜いて話題にする、などの方法で強い欲求を与えることが人を動かすと述べている。
小林氏はそれを参考に、「ブログやSNSで世界に情報発信できる場が用意され、その発信内容には制限がなく、不特定多数の人の閲覧やコメントが寄せられるといった3つの要素が強い欲求を与えることで、日々何時間もボランタリーWebに時間を費やすのではないか」と分析する。
だが小林氏は、CEVが精力的に活動するためには「情報耐性力」と「情報構想力」といったマインドスキルが必要だという。広く深く情報を提供することは、評価される一方で、誹謗、中傷、批判といった言葉の暴力にさらされやすくなる。そんな否定的なコメントに負けない力が求められる。
また、これまでの情報力に対する差別化は、いかに多くの知識を詰め込むかといった努力が問われてきた。しかし情報が溢れ返る現在、情報を引き出す構想力や感性といった活用力が求められるという。
そのため、CEVたちの活動を推奨、保護し、貢献に報いる仕組みを社会が整備することが重要となる。同時に企業側の視点として、小林氏は、「自社の事業がCreator、Editor、Valuerのどこでその活動を助成するものか、ポートフォリオを再定義することが重要」と指摘する。それは、今後拡大するボランタリーWeb社会への備えとして、ビジネスを成功に導く指針となるからだ。
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