IT予算をどう決めるか――調査結果から考える:GartnerColumn(1/3 ページ)
今回は実際に寄せられる質問を基にして、IT予算について少しくだけたお話をします。
前回は、エンタープライズレバレッジについて説明しました。企業力(エンタープライズケーパビリティ)を生み出す取り組みをエンタープライズレバレッジと呼び、経営トップはCIOにその取り組みを期待していることをお話しました。直感的に、CIOの仕事はテクノロジーやシステムの課題が中心ではないことに気づいた読者が多いと思います。経営トップは、サイロ型の組織構造の中で、組織横断的な課題を誰に託していいのか思案していたのです。日本の経営トップも課題の本質が組織を横断して発生していることを理解し、解決のためのパートナーの居場所を早く把握してほしいと思います。
さて、今回は、実際に寄せられる質問を基にして、少しくだけたお話をします。IT予算についてです。CIOの皆さんにも関心が高いテーマですね。ガートナーは、世界最大のIT分野におけるリサーチ会社です。このリサーチの基になる調査は、日本国内でも積極的に実施しており、ITユーザー企業の皆さまのみならず、ITベンダー側の企業の方々からも信頼されています。
この調査データに関連した質問も多くいただきます。例えば「われわれの業種におけるIT予算の売上対比は平均で何%ですか」というものです。この質問は、企業規模の大小や業種を問わず、いろいろな方からいただきます。
ほとんどの場合、私どもは逆にこのように質問します。「その数字(売上対比)をどのようにお使いになるのですか?」これも、ほとんどの場合次のように皆さまがお答えになります。「経営トップが、当社のIT予算は、高いのか安いのかと聞くので、同業種平均はどのようなものかと思いましてね」
なるほど……。経営トップは、IT予算が同業他社に対して高いのか安いのかが気になるようです。この連載で何回も書いているフレーズがあります。
「経営者は、自社の成長を願ってやみません」
成長とは「競合他社を出し抜いて自社の市場占有率を伸ばすこと」です。経営者の意志がここに集中しているならば、「自社が他社と同じであるはずはない」ことに気づかなければなりません。
ちなみに「御社の業界ではIT予算の売上比率は平均してx.x%です」とお答えすると「うちと同じだ!」と言ってお喜びになり、一方で「うちの方が高いのか……それは困った」と言ってしょげてしまう方が多いのもこの質問の特徴です。
しかし「同じだ!」と言って喜んでいてもいいのでしょうか。経営トップも業界平均で「良かった」と思うのでしょうか。業界平均よりも高いことは罪悪だという思いがCIOの側にあり、経営トップも安く済んでいてくれるならその方が良いと思っているのではないでしょうか。
さて、この問題の本質はどこにあるのでしょう。ガートナー エグゼクティブ プログラムでは、この問題の本質は次の2点にあると考えています。
- 1) CIOがIT予算の妥当性を経営トップに対して説明できない
- 2) CIOも経営者もIT部門を単純なコストセンターと見ており、企業業績(ビジネス・パフォーマンス)を上げるための投資対象として認知していない
このコラムは、「経営とITの関係を改善する」という難解なテーマについて述べていますが、IT予算についての事例で本質に迫ってみると、この関係がまだまだ未成熟です。ガートナー エグゼクティブ プログラムでは、IT予算と企業業績(ビジネス・パフォーマンス)について、2006年時点では次のような関係を見出していました。
この表は、一見大変分かりやすく、単純に企業の財務実績とIT予算の伸び率が相関しているように見えます。つまり、財務実績が上昇傾向にある場合、IT予算も伸びており、逆に財務実績が下降傾向にある場合は、IT予算も前年対比で減少しています。IT予算を実数ではなく、前年対比という視点で財務実績の市場平均値に対応させたものだからです。
しかしながら、IT予算の伸び率は、直近の研究で次のように説明した方がより実態に近いことが分かってきました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.