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IT投資効果の迷信に惑わされる経営トップ間違いだらけのIT経営(1/2 ページ)

企業でIT導入が進まない原因の1つに、IT投資に対する経営トップのためらいがある。なぜ踏み出さないのか? 実はIT投資効果に対する身勝手な思い込みが背景にあるという。

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 以前、トップがなぜIT投資をためらうのかということについて、「IT導入効果に対する疑問」を取り上げたことがある。そのときは、トップたるもの、まず経営革新を必須の課題とするべきで、そうすると必然的にIT導入の必要性に迫られるが、ITが効果的かどうかを他人任せにするのではなく自分の身をもって調べるべきだと説いた。

 しかしその後も、多くの中小企業トップから、IT投資効果が期待できそうもない、ベンダー宣伝のIT投資効果は信用できないため、「IT導入はどうも……」という声を聞く。疑問解消のために自ら勉強するわけでもない、動き出すわけでもないトップにいささかいら立つが、彼らなりの言い分がある。

 彼らの言い分を聞いていると、どうやら「投資効果」を勘違いしている節がある。勘違いには、2つある。1つは、ITを導入するとそのままいきなり効果が出るはずだと考えている場合、もう1つは、効果が変遷していることに気付かない場合である。双方とも内容については既に随所で議論されているが、IT導入にためらうトップのために改めて取り上げる。

成り行き任せで効果が出るはずがない

 まず、ITを導入しさえすれば効果が出るはずだ、という間違った思い込みである。実は効果が出るかどうかの決定的要因は、導入に取り掛かる初期のところと導入後の経過という2点にある。

 前者については、IT導入を決断するなり、直ちに「成功のための条件」を整えなければならないということである。その時点で、該当システムが所期の効果を実現できるかどうかが決まるといっても過言ではない。その条件に手抜きをすると、IT投資効果は大幅に減る。

 成功のための条件は、筆者もあらゆる機会に主張してきたように、(1)トップの適切な関与(2)目標の定量表示(3)プロジェクトチームへの優秀な人材の投入(4)社内意識の変革(5)ユーザー意見の反映(6)業務改革(BPR)である(拙著「IT導入は企業を危うくする」洋泉社)。これらの条件に無関心でいる者に、導入システムの効果をとやかく言う資格はない。成り行きに任せておいて、効果が出るわけがない。

 後者の「導入後の経過」については、導入後にユーザーがシステムを自分たちの手で何としても軌道に乗せるのだという固い信念と覚悟を継続して持ち続けることが必要だ。往々にして、ユーザーは当事者感覚を欠いて、ベンダーが無理やり入れたシステムだとか、情報システム部門がうまく運用するものだとか考えてしまいがちだ。システム運用がうまくいかなかったときは、ベンダーや情報システム部門のせいにする。これでは、絶対にシステムは定着しないし、所期の効果も出ない。導入後、何よりも当事者であるユーザーが、「何が何でもこのシステムをものにしてみせる」という気概や信念を継続的に持たなければ、システムは定着しないし効果も出ない。気概のあるユーザーは、準備段階から相当積極的にかかわるだろうし、稼働後に何が起ころうがトラブル解決のため必死で奔走するに違いない。ユーザーにこの迫力があればIT導入効果は実現できる。効果に疑問を呈する余地などない。

 注目すべきは、以上の2点いずれもトップの姿勢に左右されることである。なぜなら、社内はトップの動きに敏感であるため、投資効果に疑問を持つトップ自身の考え方で、投資効果が左右される皮肉なことになるわけだ。

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