ギャップだらけの組織を救う「ストーリーテラー」であれ:タスクチームのススメ(4)(4/4 ページ)
タスクチームの進行には、問題の原因をしっかりと分析しておくことが不可欠だ。データと論理で主張を固め、解決までのストーリーをしっかりと立てることで、組織で発生するギャップを回避できる。
4-3 ストーリー作り
アクションプランを策定するためには、原因分析だけでは不十分だ。原因分析は必要なプロセスであるが、原因分析の結果を単純に収集し、それぞれの原因に対して個別にアクションプランを作っても意味がない。一貫性がない場当たり的な対策になってしまい、その後のタスクチームの進行が難航するからだ。結果として、膨大な時間をかけても、成果に結び付けられない場合が多い。
ここで求められるのが「ストーリー作り」だ。タスクチームが何を目指して動き、どのような成果を上げるのかをメンバー全員で理解するために、シンプルなストーリーを立ててみるといい。問題と原因を分析した上で全体を貫くストーリーを考える。その上で仮説を立て、問題や原因を分類していくのだ。
例えば、組織が縦割り構造になっていて、顧客の要望に柔軟に対応できていないという原因分析が散見される場合は、「顧客の要望をくみ取り、開発から営業までを“一気通貫”で行う組織に変革する」というストーリーを作る。これに従って具体的な仮説を立てる。
このストーリーを基に「セグメントAの顧客グループに対して、営業/開発/技術部門をxx人規模で再編成し、最適化した業務プロセスを構築する」という仮説を作り、当初の問題をどう解決するかを考えてみる。
ここで注意点がある。現状および原因の分析に手間がかかるからといって、これらを省略していきなりストーリー作りに取りかからないことだ。繰り返すが、現状と原因の分析が不十分だと、現実とかい離した「現状肯定型」のストーリーが生まれがちだ。これでは、タスクチームが本来持っている真価が発揮されない。
個別の問題を分析して対応策を積み上げる方法は、様々な観察結果から結論を導く「帰納的方法」である。一方、ストーリー作りによるシナリオ策定は理論や定説を当てはめて結論を導く「演繹的方法」といえる。両者は排他的なものではなく、お互いに補完しあうものとして考え、活用したい。
次回はアクションプランや進ちょく管理の方法を決める方法を取りあげる。
(注)本書に掲載された内容は永井孝尚個人の見解であり、必ずしも勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。
著者プロフィール:永井孝尚(ながいたかひさ)
日本アイ・ビー・エム株式会社ソフトウェア事業部にて、マーケティングマネジャーとして、ソフトウェア事業戦略を担当。グローバル企業の中で、グローバル統合の強みを生かしつつ、いかに日本に根ざしたマーケティング戦略を立てて実践するのか、格闘する日々を送っている。アイティメディア「オルタナティブ・ブログ」の「永井孝尚のMM21」で、企業におけるマーケティング、ビジネススキル、グローバルコミュニケーション、及び個人のライフワークについて執筆中。著書に「戦略プロフェッショナルの心得」がある。
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