サービス残業、責任のなすり付け、粉飾……、管理職の暴走が招いた結末:生き残れない経営(1/2 ページ)
政治の世界でも経営の世界でも、その場しのぎのごまかしは通用しないものである。経営トップからの強烈なプレッシャーによって自暴自棄になった赤字部門の管理職がとった行動とは?
人間関係でも、政治の世界でも、スポーツの世界でもそうだが、表面を糊塗(こと)してその場をしのごうとする考え方は、後で必ず反動がくる。経営の世界でも同じことが言える。ごまかしてその場をしのぐ経営姿勢は、やがて企業を崩壊させることになる。たとえそれが小事であっても、芽を摘んでおかないと、やがては大事に発展する可能性がある。本質にアプローチしなければ、事態の真の改善は期待できない。近年の多くの企業の不祥事とその結末は好例である。
表面を糊塗しようとして失敗した、小経営者の哀れな物語を紹介しよう。某大企業のA製造課長は何期も赤字で悩んでいた。トップからは常日ごろより赤字を解消するよう徹底して責められていた。ある日、トップから相当痛めつけられたのだろう、A課長は製造現場に戻るや否やいらいらして叫んだ。
「赤字を解消するため、人殺し以外は何でもやれ!」
トップからどんな指示があったか知らないが、その日以来、A課長の口癖となった。その結果、製造現場ではいくつかの恐ろしいことが起き始めた。
サービス残業の横行、ついには粉飾までも…
まず、製造係長は外注メーカーの標準作業時間をカットし始めた。標準作業時間は、計測するなり、作業動作分析するなりして、明確な基準で設定するものだ。標準作業時間は、外注支払いの見積もり基準や管理基準にもなるため、設定次第で外注の生死を左右する。製造係長が、外注メーカーの標準作業時間を数カ月ごとに一律2%、3%と、根拠なく力づくで削った。資材部も「原価低減ノルマ」の達成につながるので協力した。サービス残業も横行し始めた。無言の圧力で、残業を申請しにくい雰囲気が職場を覆った。係長、次に管理職予備軍、最終的には一般事務職も残業届けを遠慮するようになった。
さらに恐ろしいことが起きた。実際に製品が完成していないのに、完成したことにして出荷扱いとし、売り上げに計上する通称「カラ完」、つまり粉飾である。最初は1日分の出来高をカラ完したが、こういう悪行はあり地獄のようにどんどん深みに入り込むものだ。月を追うごとに「カラ完」の量は増え、ついには1年で2週間分ほどのカラ完を実行するようになっていた。当然営業や顧客から「出荷伝票が着いたが、現品が来ない」と催促される。「倉庫の出庫に手間が掛かっている」、「輸送車が渋滞に巻き込まれているのだろう」などと苦しい弁解が続くが、2週間分ともなるとごまかしきれないこともある。
そうした後追いの仕事が増えて、ますます赤字解消の本質的な手が打てなくなっていった。その異常な状態が2年ほど続き、本社の知るところとなり、カラ完を強制終了させ、うみを出して、関係者が処分された。
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