営業最前線を見直せ――真の価値提供ができる営業力とは:潮目を読む(2/3 ページ)
不況期の中、多くの企業では早急な経営改革を迫られている。躍進し続けるためには営業最前線において3つの観点での創意工夫が必要だという。
2つの営業モデルの比較
では、ここで営業モデルの典型的な例をいくつか見てみましょう。ある顧客企業からRFP(Request for Proposal)が出され、各サービスプロバイダーによる提案が行われました。
1つ目のサービスプロバイダーA社は、10人近い大人数で顧客へのプレゼンテーションに臨んできました。そのプロバイダーが持つ総合力を結集して「何としてもこのプロジェクトを成功させる」という強い意気込みやコミットメントの表れで、プレゼンテーションする人のほか、インフラ関連やシステム構築など個々の領域の担当者数人と、営業と思われる数人などさまざまな担当者がいました。プレゼンテーションが終わってから質疑応答では、プレゼンテーションした人が全体的な質問に対応したほか、同行者もそれぞれの専門領域で答えていました。B社の例では、参加したのは2人で、プレゼンテーションは1人が最後まで行い、質問にもほとんど回答しました。
このような営業モデルの違いがどのような理由で生じるのかを見てみましょう。A社は会社の規模が大きく組織機能が細分化されており、各組織機能を代表する人がそれぞれ権限を持っています。従って、提案書の完成にあたっては、関連部門との連携が必要です。全社的な総合力とあわせて、個別の領域の専門性も高く書かれているのは、役割や機能のスペシャリスト化、分化による現象の1つといえます。
B社のケースは、パートナーモデルと呼ばれるコンサルティングファームの営業モデルです。パートナーと呼ばれる人材に多くの権限が委譲されていますが、その人材はサービスの実行経験を踏まえてそのポジションにたどりついた人材であるため、顧客企業のニーズに関する多くの領域についての知識を有し、特定の領域については深い経験を有しています。このように広く対応できる知識と深い経験を有しているゼネラリスト人材のスキルを形にすると、「T」の字に似ていることから、T-Shape人材と定義されます(図1)。
A社、B社の各モデルには、優劣ではなく向き不向きがあります。A社モデルは大規模な仕事の受注には向いていますが、顧客企業のニーズに対して小回りが効きにくいという側面があります。対してB社モデルは、顧客企業のニーズに臨機応変に対応できますが、大規模な仕事を請け負うには不向きという特徴があります。
現在、多くの顧客企業は早急な経営改革を必要としており、顧客企業のニーズに応えるには、深い経験を有する領域が2つ以上あるπ-Shapeの人材が理想です。しかし、実際にはA社、B社の例を問わず、T-Shapeの人材でさえ不足しています。
トップリレーションはどのように築くのか
上述の営業モデルの次に考えるべきは、トップマネジメントとのリレーション構築です。社長(CEO)、営業本部長や業務担当役員(COO)、財務担当役員(CFO)、IT担当役員(CIO)といった人たちとのリレーションを作るために、トップコールと称してプロバイダー側のトップが会いに行くわけですが、問題は会って何を提案するかです。
多くのケースでは挨拶に加えて、契約やプロジェクト完遂の感謝の辞を述べる御礼コール、またはクレーム対応が圧倒的に多いようです。このような目的で年に数回会ったり、時にはゴルフや宴席などをもうけたりしても、真のエグゼクティブ・リレーションシップは築けないでしょう。トップコールといえども形式的なものではなく、顧客企業のビジネスや課題、戦略的方向性をよく理解した上で、それらに適合するオファリングやソリューションについての情報を提供し、議論する必要性があります。そこで話し合われたことが実現され、顧客企業のビジネス価値向上に貢献した実績があって、はじめて真のリレーションは築かれるのです。
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