ビジネスマナーなど入社してから身に付けろ!:生き残れない経営(1/2 ページ)
本来、学生が身に付けておくべき能力とは、入社後に教育できないもの、あるいは教育に途方もなく時間がかかるものであるはずなのに……。
前回は、経済産業省「社会人基礎力に関する研究会」の中間とりまとめで提唱された「社会人基礎力」の概略と、それに関するアンケート調査から、人材採用における企業と学生の勘違いや誤解を指摘した。必要とする能力、される能力について、曖昧さを排除し、メリハリをつけなければ、企業、学生の双方にとって不幸せを来すことになる。
今回は、別の視点から分析することで採用人材についての誤解を正し、企業の社員教育のあり方を提言したい。
企業が本当に望む人材とは何なのか
企業が要求する人材に大きな矛盾があることが、ビジネスパーソン1万人に対する「日経進学NAVI」の調査結果に表れている(日経進学NAVI「ビジネスパーソン1万人調査」日本経済新聞 2008年11月28日付)。
大学卒の新入社員に不足していると思われる姿勢や態度 | 社会人となる学生が身に付けておくべきと考える姿勢や態度 | |
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打たれ強さ | 46.0%(1) | 42.0%(10) |
積極性 | 36.8%(2) | 57.4%(2) |
協調性 | 35.9%(3) | 65.3%(1) |
バイタリティ | 30.5%(4) | 40.7%(11) |
前向きさ | 29.8%(5) | 56.9%(3) |
※()は順位
まず、企業で新入社員に不足していると思われる「打たれ強さ」「バイタリティ」が、おかしなことに必ずしも企業から学生に要求されておらず、要求順位が下位に位置している。これは明らかに矛盾している。さらに、企業が学生に要求している第1位が「協調性」であり、このことは組織にとけ込む無難な人材を求めているようにも思われる。
学生が身に付けておくべき能力についても矛盾が見られる。
社会人となる学生が身に付けておくべき能力(上位5要素)
- 基本的なビジネスマナー 76.0%
- 豊かな一般知識・教養 71.0%
- コミュニケーション能力 64.4%
- 問題解決能力 42.2%
- 基本的なビジネス文書作成やメールのためのPCスキル 39.5%
学生に身に付けておいて欲しい能力とは、そもそも入社後に教育できない能力、あるいは教育に途方もない時間がかかる能力としなければならないはずである。そういう観点から見ると、「基本的なビジネスマナー」や「基本的なビジネス文書作成」は入社後の教育で十分間に合うはずであって、採用選定時の基準にするのは何とももったいない話である。
「豊かな一般知識・教養」もほぼ同じことが言える。入社後の教育が比較的容易な能力を採用時に求めることは、極めて非効率的、いや、むしろ間違いである。入社後の教育が困難な別の能力を採用選定基準の上位に置くべきだ。
前回も含めて、以上をまとめると、
(1)企業は、学生に不足していると思われる能力を明確に要求すべきである。不足していると認識しながら、それとは別の能力を採用時の選定基準に設定することは、企業側も学生側も混乱し、以降の企業の教育計画にも支障をきたすだろう。
(2)企業は、採用時の選定基準として、受身的や付和雷同的、あるいは周囲の空気を読む、組織に無難にとけ込むなど誤解されるような表現での能力を上位に設定すべきでない。それは、企業のためにならないし、学生の能力養成方針をも誤らせる。
(3)企業は、入社後容易に教育できる能力や姿勢を安易に採用時の選定基準に設定すべきでない。入社後の教育がほとんど不可能な要素、あるいは入社後の教育に途方もない時間がかかる要素を、選定基準の上位に設定すべきである。そうでないと、著しく効率を損ねるし、企業と学生双方にとって不幸である。
(4)学生が従来考えている自分自身が得意とする能力は、企業の要求する能力とあまり関係がない。学生は企業の要求する能力を誤解せず、正確に把握し、その養成に努力すべきだ。
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