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「経営者は単一事業の戦略を考えるべき」――早稲田大学大学院・根来教授【前編】【対談連載】石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(1/2 ページ)

経営戦略や競争優位性に関する理論について雄弁に語る根来先生とお話していて、スタンフォード大学のビジネススクールで学んだ時に感じたことを思い出しました。

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早稲田大学ビジネススクールの根来龍之教授
早稲田大学ビジネススクールの根来龍之教授

 早稲田大学大学院商学研究科(ビジネススクール)の根来龍之教授といえば、経営戦略とIT戦略についての論客として知られ、学生のみならず産業界でも絶大な人気を誇る先生です。「実務をしている人にとっては、アカデミックなんて現実離れしていて絵に描いた餅だと思うよね」――そんな自虐的ギャグで話を始めてくれる根来先生だからこそ、厳しくも優しいと評判が高いのでしょう。

 実は、わたしもスタンフォード大学のビジネススクールで学んだときに同じような疑問を持っていました。34歳という比較的高い年齢で入学したので、いくつかの授業内容はすでに実践済みで、それを学び直す必要があるのかという疑問がいつも頭の片隅にありました。特にわたしを悩ませたのはフレームワークです。戦略から人事まで、ビジネスのあらゆる事象にフレームワークを当てはめようとする米国の学習法に一種の抵抗さえ覚えていました。根来先生のおっしゃるように、フレームワーク通りに仕事が進むなら苦労しない、というのがわたしの持論でした。

 しかし、卒業して現場に戻ってみると、じわじわと学習効果が効いてくるのです。つまり、実際に経営をしてみると、中に入り過ぎている故に見えなくなることも多く、それを俯瞰的に大きな視野で見つめ直してみると、一定の論理、つまりフレームワークで仕事が動くことを実感しました。確かに、経営や業務の遂行は可変要素が多すぎて判断が難しいのですが、そんな時こそアカデミックなフレームワークは意味を持ちます。

改めて「企業の競争優位性」を問う

 根来先生の説明は実に明快で分かりやすい。ついつい学生時代を思い起こして、不況に悩む経営者の頭をリフレッシュしてくれそうなお話をたくさん伺いました。

 経済環境は厳しく、不況のたびに業界の再編が起こり、企業間の優劣も変わっていきます。だからこそ、このタイミングで企業の競争優位性を見直してみたいと思いました。根来先生に、まず「競争優位」の定義をお尋ねしました。先生は、アカデミックな意味での競争優位性のよくある定義として、マーケットで1位であること、そして、持続性という要素を挙げられました。

 マーケット=市場を論じる場合に重要なことは、マーケットの定義です。マーケットとは境界のあるものです。ある一定の範囲で閉じていないとマーケットとは呼べません。境界のある閉じたマーケットだからこそ、独占や寡占を論じることができます。

 例えば、MicrosoftのOSはPCという市場では1位であり競争優位があるけれど、携帯電話にその市場を広げれば優位性は見られません。かつてPCと携帯はまったく別な用途で利用されていました。しかし、用途に類似性が出てくると相互に代替品になってきます。GoogleのAndroid OSは、携帯のOSとして普及しそうですが、ネットブックに搭載される日も近そうです。すると、PCで優位性のあったWindowsも現在と同じレベルの優位性を保つのは難しそうです。今や、PCと携帯とネットブックとスマートフォンは同じ市場ととらえたほうが妥当だというのが根来先生のご意見です。

 一方で、持続性とは、単年度で1位になっても優位性と呼べないことを意味します。毎年ヒット商品が出てきますが、ヒット商品で1位になることは競争優位性ではありません。その優位性が何年も続かなければなりません。しかし、その長さは明確に決められるものではありません。定量的に3年から5年のスパンといった定義はできません。強いて言えば、技術の変化があまり起こらない分野では、長くとらえる方がいいでしょう。

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